【取組紹介Vol.24】当事者と家族の声を聴き、必要な支援につなげる。「NPO法人 脳損傷友の会高知 青い空」の取り組み【後編】

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掲載日 : 2026/10/06

今回は、「NPO法人 脳損傷友の会高知 青い空」のインタビュー後編です。青い空では、高次脳機能障害があっても一人ひとりが楽しみや生きがいを持って暮らせる地域社会の実現を目指して活動しています。

後編では、高次脳機能障害者支援法の成立に向けた歩みと、法整備によって期待される変化、青い空の今後の展望について伺いました。

 

※前編はこちらからご覧いただけます。

 


後編サムネイル

「就労継続支援B型事業所 青い空」で作業に励む利用者
(写真:ことのは舎)

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高次脳機能障害者支援法

高次脳機能障害への理解を促進するとともに、高次脳機能障害を持つ人の自立と社会参加のための生活全般にわたる支援(医療・リハビリ、生活支援、社会参加支援)を、どの地域でも切れ目なく受けられるようにするための法律。議員立法によって2025(令和7)年12月16日に成立、同月24日に公布され、2026(令和8)年4月に施行された。

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「高知家地域共生社会」では、介護や子育て・就労困難者のサポートなど、分野を超えた包括的な支援体制の整備を進めています。その実現に向けて取り組みを行う県内各地の実践事例をご紹介します。

10年以上も求め続けた、高次脳機能障害のある人を支えるための法律

-2026(令和8)年4月、「高次脳機能障害者支援法」が施行されました。片岡さんはこの法整備に尽力されたそうですが、その背景についてお聞かせください。

私が高次脳機能障害に関する法律が必要だと考え始めたのは、今から10年ほど前のことです。2014(平成26)年、私が青い空の理事長に就任した当時は、高次脳機能障害そのものが社会で十分に知られておらず、社会的に孤立する人がいることさえも認知されない状況に、大きな課題を感じていました。

その頃、私は高次脳機能障害だけでなく、障害福祉全体について考える団体にも関わるようになっていました。そこでさまざまな方と出会い、制度や政策について学ぶ中で、状況を変える一つの手段として「法律をつくる」という方法があることを知りました。

高次脳機能障害のある人が抱えている課題を一つひとつ取り上げて解決するだけでは、抜本的な改善にはなかなかつながりません。社会全体で高次脳機能障害の当事者や家族を支えるための基盤として法律が必要だと考え、全国の仲間とともに成立を求める活動を続け、ようやく実を結びました。

 

-法律の成立を受け、当事者やそのご家族からはどのような声が聞かれましたか。

当事者やご家族からは、「やっと実現した、待ち望んでいた法律だ」という声が多く聞かれました。また、法律が成立する際の本会議では、反対票がゼロであったことからも、高次脳機能障害の当事者だけでなく、多くの人が「この法律は必要だ」と考えているのだと感じました。

「高次脳機能障害の人々を支えられる社会にするべきだ」という根本の部分で、多くの方が同じ方向を向いていると確認できたのは、非常に心強かったですね。

その一方で、法律ができたからといって当事者の生活がすぐに変わるわけではありません。ある当事者からは、「法律が施行されたことを身の回りの人は誰も知らないし、何も変わらない」という切実な声が寄せられました。

高次脳機能障害者支援法は、この法律を基盤として現場が支援体制を整えたり、行政に必要な施策や予算確保を働きかけたりしながら、少しずつ社会を変えていくためのものです。だからこそ、法律をつくって終わりではなく、これから私たち現場の人間がこの法律をどう使っていくのかが大切だと思っています。

 

 

どこに住んでいても必要な支援を。法整備から目指す格差のない社会


前編3

就労継続支援B型事業所では、さまざまな道具を使い機械類の解体作業を行う
(写真:ことのは舎)

-法整備によって、今後どのような変化が表れることを期待していますか。

地域ごとの支援体制の差が少しずつ縮まることを期待しています。これまで高次脳機能障害を持つ人への支援は、地域によって予算や専門人材、支援体制に大きな差がありました。

今回施行された法律には、国や地方公共団体が体系的・計画的に施策を実施していくことや、その取り組みを公表していくことが盛り込まれています。各地域が計画を立て、実行し、その結果を公表する。そのサイクルを繰り返すことで、他地域の優れた取り組みも見えるようになります。

他県の支援内容を参考にしてより良い体制をつくるなど、互いに学び合えるようになれば、地域格差の是正につながっていくのではないかと思います。

 

-どこに住んでいても、高次脳機能障害に必要な支援が受けられる社会になることが重要ですよね。

はい。そしてもう一つ大切なのが、高次脳機能障害に対する理解です。この数十年で、注意障害や記憶障害といった障害そのものへの理解はかなり広がってきたと思います。ただ、私が理想とする理解は、もう一歩先にあります。

例えば、記憶障害のある人なら「繰り返し同じことを伝える必要がある」など、障害の特徴を知ることと、その障害によって本人がどのような困難や心情を抱えているのかを理解することは、まったく別だと思っています。

私はこれを、「自分ごとにたぐり寄せる想像力」と表現しています。「もし自分がこの人だったら」と想像してみると、毎日どれほど悩み、生きづらさを感じているのかが少しずつ見えてくるかもしれません。

高次脳機能障害者支援法が謳う基本理念を通じて、障害を持つ人の心情や悩みにまで人々の理解が広がることを願っています。

 

障害の有無に関わらず、誰もが楽しみや生きがいを持って暮らせる未来へ


後編3

就労継続支援B型事業所の利用者が廃材で作成した、「ねじ人間野球盤」
(写真:NPO法人 脳損傷友の会高知 青い空)

 

-青い空として今後力を入れたい活動はありますか。

これから特に力を入れたいと考えているのが、文化・芸術を通じた取り組みです。

福祉や医療の現場では、どうしても「命に関わること」が優先されます。もちろん、栄養を取るために食事をし、お風呂に入って清潔を保ち、排泄を促すことは命を守るために欠かせません。

けれども、そんな最低限の命を守る行動のためだけに生きている人は、ほとんどいないと思います。毎年のよさこい祭りや、好きなスポーツ選手を応援することなど「やらなくても命は失われないけれど、楽しみで仕方がないもの」こそが生きがいです。

高次脳機能障害のある人にも、当然そういった楽しみを持つ権利があります。だからこそ、命を守る支援だけでなく「この人は何を楽しみに生きているのだろう」という部分にまで目を向け、文化・芸術によって生きがいを見つける支援を実践したいと考えています。

 

-文化・芸術に注目した背景には、どのようなきっかけがあったのでしょうか。

高次脳機能障害を持つ人の中には、映画館や美術館などの静かな場所へほとんど行ったことがない方もいます。映画の途中で話してしまったり、美術館で静かに過ごせないかもしれないと考えると、最初から「自分には縁のない場所だ」と諦めてしまうのです。

そんな声を当事者や家族から聞いた時に、障害によって行動が制限されたり、経験できるはずのことから遠ざけられている現状を知りました。そこで、青い空では厚生労働省の障害者芸術文化活動普及支援事業における中国・四国ブロックの広域センターとして活動し、アート展やバリアフリー演劇などを実施しています。

例えばバリアフリー演劇では、目が見えない人や耳が聞こえない人、行動面に障害のある人など、さまざまな人が同じ空間で演劇を楽しみます。その場に行けば、障害のある人もない人も、一緒に楽しむためにどんな工夫が必要なのかを自然に感じられます。

一人ひとりがその場を見て感じることで、「自分たちの暮らす地域における共生社会とは何か」を考える。文化・芸術には、そんなきっかけをつくる力があると思っています。

 

-今後の青い空の活動において、地域との関わりをどのように深めていきたいですか。

高次脳機能障害を知ってもらうだけではなく、障害のある人と同じ場所で過ごし、一緒に何かを楽しむ機会を増やしていきたいですね。その際に文化・芸術はとても良いプラットフォームになると考えています。

高次脳機能障害を持つ人が作った作品を見て、「自分にはこんな発想はできない」と感じたり、演劇を一緒に楽しみながら「こうすればみんなが同じ場にいられるんだ」と気づいたりする体験は、一人の個人として障害のある人を見て、その人が持つ才能や個性にも目を向けるきっかけになるのではと思います。

障害のある人が地域で暮らしていると、もしかすると周囲が困ってしまう場面もあるかもしれません。だからといって地域から遠ざけるのではなく、「どうすればお互いにとって良い形で一緒に暮らせるのか」とみんなで考えることが重要です。

法律が施行された今だからこそ、誰もが楽しみや生きがいを持ちながら暮らせる社会へ近づけるための対話を、地域の中に少しずつ増やしていきたいと思っています。

-高次脳機能障害者支援法の成立を新たな出発点として、当事者とその家族、医療・福祉の専門職とともに、ますます必要な支援を届けるために奔走する「青い空」。

その活動は最低限の生活を支えるだけにとどまらず、一人ひとりが楽しみや生きがいを持ち、自分らしく地域で暮らしていくための環境づくりへと広がっています。

文化・芸術や地域との連携を通じて生まれる新たなつながりと、青い空がこれから描く共生社会の形に期待が高まるお話でした。本日はありがとうございました。

 

 

記事執筆:ことのは舎

 

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