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- 【取組紹介Vol.18】《開催レポート》“小さな実践”がつなぐ、地域の輪 令和7年度こうち孤独・孤立対策官民連携プラットフォーム事例共有会 【後編】
「令和7年度こうち孤独・孤立対策官民連携プラットフォーム事例共有会」の開催レポート、後編です。
南国市社会福祉協議会とこうち生活協同組合の取り組み事例について紹介します。
制度対応できない課題に対して、“身近な行動”を通して、孤独や孤立を防ぎ、人と人をつなぐ力を生み出す取り組みが印象的でした。
※前編はこちらからご覧いただけます。
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高知型地域共生社会の実現を目指して、社会福祉法人や民間企業・団体、NPO法人、地域住民、行政等が幅広く連携し、孤独・孤立対策を推進しながら、つながりを実感できる地域づくりを行うため、高知県が2025(令和7)年に立ち上げました。
https://kochi-kyosei.pref.kochi.lg.jp/kyosei/page/dtl.php?ID=249
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「高知家地域共生社会」では、介護や子育て・就労困難者のサポートなど、分野を超えた包括的な支援体制の整備を進めています。その実現に向けて取り組みを行う県内各地の実践事例をご紹介します。
南国市社会福祉協議会が見つめる、“日常”の支え合い
南国市社会福祉協議会の発表資料より抜粋
制度の狭間にある、ひとり暮らしの高齢者を地域でどう支えるのか——。
南国市社会福祉協議会の北野氏が紹介したのは、特別な制度ではなく、日々の暮らしの中に「つながり」を育む工夫でした。
取り組みの拠点となる「あったかふれあいセンター」では、水曜日と金曜日の週2回、「ひとり暮らし高齢者の集い」を開催。
参加対象は、65歳以上で要介護の認定を受けておらず、通所サービスを利用していない方のうち、子どもがいない(または県外在住の)方です。食事や買い物、レクリエーションなどを通じて自然なつながりが育まれています。
-「ひとりの夜」を減らす夕食の時間
昼間は友人と過ごしていても、夕食は一人で摂るという人も少なくありません。
こうした状況を踏まえ、「ひとり暮らし高齢者の集い」では夕食をみんなで囲む場を設けています。外で買ったおかずに加え、利用者がご飯や味噌汁を用意したり、カレーやお好み焼きといった複数人で食べる料理も皆で一緒に調理します。
みんなで作って食べるからこそ、自然と会話が生まれ、温かな時間が広がっています。
-買い物支援と定期訪問で“小さな変化”に気づく
孤独は目に見えにくいからこそ、日常の中で小さな変化をキャッチできる仕組みが欠かせません。
「ひとり暮らし高齢者の集い」では、2週間に1回の買い物支援と、2か月に1回の定期訪問を実施しています。利用者は車での送迎を利用して参加しているため、買い物支援では、お米や水など一人では買いにくい重い物も安心して購入できます。
「集い」の利用者は現在18名(水曜日:9名・金曜日:9名)。利用者同士のつながりも生まれ、「集い」のない日にも電話でお互いの様子を確認し合う関係が自然に育まれています。
また、こうした利用者同士やスタッフとの日常的な関わりが、ちょっとした異変に気づくきっかけにもなっています。
例えば、ある利用者からの電話を受けたスタッフが声の調子に違和感を覚えたため、すぐにかけつけたところ、その後の受診で軽い脳梗塞が見つかり、すぐに入院し、大事に至らずに済んだということもありました。
定期訪問により、生活の困りごとや自宅での様子の変化などにも気づけるため、必要な支援へスムーズにつなげることができています。
こうした活動は、いずれも制度だけでは対応しきれない”狭間のニーズ”に応えるものです。
高齢者が住み慣れた地域で元気に暮らし続けられるように——。
早期発見と早期対応の仕組み、そして利用者同士の自然なつながりを育む取り組みは、共につながり支え合う地域づくりの基盤となっています。
こうち生協の配送が、地域の“見守り網”に
こうち生活協同組合の野村 氏による発表画面(オンラインで参加)
最後に登壇したのは、こうち生活協同組合(こうち生協)運営企画グループの野村氏。
「健康と子どもたちの未来のために」を基本理念に掲げ、約10万人の組合員を支えるこうち生協では、県内全域をカバーする配送網を活かした“地域の見守り活動”を展開しています。
-「いつもと違う」に気づける配達員
こうち生協の配達員は、毎日さまざまな家庭を訪れます。
玄関先のちょっとした変化にも気づける強みを生かし、配達時に安否確認や声かけを行い、必要に応じて行政や民生委員などへ連絡する仕組みを整えています。
こうした取り組みは、高知県の「高知家地域共生社会推進宣言」にも位置づけられていて、こうち生協ならではの地域貢献のかたちと言えます。
実際に、配達先の高齢者の家で、玄関先での呼びかけに応答はないものの、トイレの方からかすかな声が聞こえたということがありました。異常を感じた配達担当者が家の中を確認してみると、腰を痛めて動けなくなっていた住民を発見し、地域包括支援センターへ連絡。迅速な救助につながりました。
こうした命に関わる対応は、年間5〜6件ほどあるそうで、日常の配達業務が、地域の安全を見守る大切な“まなざし”になっているのです。
-学生との料理教室で生まれる、世代を超えた交流
こうち生協では、組合員向けの健康づくりにも力を注いでいます。
2025(令和7)年2月に、高知県立大学と連携し、野菜の摂取量や栄養バランスを数値化して、日々の食生活を見直すきっかけづくりを行うイベントを開催しました。
さらに、組合員と学生が一緒に調理する料理教室も開催し、組合員からは「若い人と話せて楽しかった」といった声も多く寄せられ、世代を超えた交流の場にもなったことも大きな収穫となりました。
健康づくりを切り口に、新たな関わりが生まれたこの取り組みは、地域における多様な連携の可能性を感じさせるものでした。
今回紹介した3つの取り組み事例は、いの町、南国市社協、こうち生協それぞれの立場や分野は違っていても、共通する点があります。
それは、地域でつながり支え合うという視点によって、制度やサービスの枠組みだけでは対応しきれない課題に目を向け、人と人との小さな支え合いを積み重ねているという点です。
本会の冒頭で基調説明を行った内閣府 孤独・孤立対策推進室 参与の大西連氏は、各事例へのコメントを次のように述べました。
・ いの町は、小さな自治体でも(分野を超えた)庁内連携を進めている点が、多くの自治体にとって参考になる。
・ 南国市社会福祉協議会は、制度の狭間にあるニーズをしっかり拾い上げている。
・ こうち生協は、利益が生まれにくい領域で、ちょっとした気づきや作業を担っていることが意義深い。
さらに大西氏は、「人が集まる場や日常の活動のなかに、戦略的に“つながるきっかけ”を組み込むことが重要」と強調していました。また、市外からの転入者にプロ野球観戦チケットを配布し、地域に愛着を持ってもらう福岡市の取り組み事例などを紹介しながら、「孤独・孤立対策に限らず、まずは地域との接点をつくることが大切」と呼びかけました。
行政・民間・地域がそれぞれの立場からアイデアを持ち寄り、つながりを少しずつ広げていくこと。それこそが、孤独・孤立対策を地域に根付かせていく第一歩といえるでしょう。
事例共有会の最後に、オンライン上で集合写真(※参加者の一部)
記事執筆:是永 裕子
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