【取組紹介Vol.18】《開催レポート》孤独・孤立は“誰にでも起こり得る身近な課題” 令和7年度こうち孤独・孤立対策官民連携プラットフォーム事例共有会 【前編】

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掲載日 : 2025/12/09

ひとりで悩みを抱え込み、気づけば誰にも頼れなくなっていた――。そんな「孤独・孤立」は、特別な誰かの話ではなく、誰にでも起こり得る身近な課題です。人口減少や家族のかたちの変化、地域のつながりの希薄化など、社会の構造が大きく変わるなかで、従来の制度だけでは支えきれないケースが増えています。

こうした現状を踏まえ、「高知型地域共生社会」をさらに効果的に推進するため、官民の様々な団体が幅広く参加し、連携して取り組む、「こうち孤独・孤立対策官民連携プラットフォーム」が設置されました。今回は、2025(令和7)年9月17日にオンラインで開催された事例共有会における官民の取り組み事例や実践者の想いについて伺いました。

 


前編サムネイル

官民の取り組み事例が発表された事例共有会

 

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こうち孤独・孤立対策官民連携プラットフォームについて

高知型地域共生社会の実現を目指して、社会福祉法人や民間企業・団体、NPO法人、地域住民、行政等が幅広く連携し、孤独・孤立対策を推進しながら、つながりを実感できる地域づくりを行うため、高知県が2025(令和7)年3月に立ち上げました。

https://kochi-kyosei.pref.kochi.lg.jp/kyosei/page/dtl.php?ID=249

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「高知家地域共生社会」では、介護や子育て・就労困難者のサポートなど、分野を超えた包括的な支援体制の整備を進めています。その実現に向けて取り組みを行う県内各地の実践事例をご紹介します。

 

地域の孤独・孤立について、官民でともに考える場として

2025(令和7)年9月17日、オンライン上に企業、NPO法人、社会福祉法人、医療・福祉、自治体など、幅広い分野の方々が集まりました。

テーマは「孤独・孤立」。それぞれの現場で活動する方々が、一つの“場”を共有し、地域課題に対する取り組みを発表し合い、考えを深める時間となりました。

この日の事例共有会では、内閣府による基調説明に続いて、県内の取り組み事例を紹介する二部構成。いの町ほけん福祉課、南国市社会福祉協議会、こうち生活協同組合の3つの事例を軸に、現場での具体的な取り組みや課題が語られました。

開催後のアンケートでは、約9割の方が「次回の開催があれば参加したい」と回答され、地域課題の解決に向けて、皆で知り、考える、新たなネットワークが芽吹き始めていることを感じる結果となりました。

 

孤独・孤立は“誰もが関わる可能性のある課題”——大西 連 氏の基調説明


前編2

認定NPO法人 自立生活サポートセンターもやい・理事長/内閣府 孤独・孤立対策推進室 参与 大西 連 氏

 

最初に登壇したのは、認定NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」理事長であり、内閣府 孤独・孤立対策推進室 参与も務める大西 連 氏。テーマは「孤独・孤立対策のこれまでとこれから」。国の視点から、現状と今後の方向性が語られました。

 

-現役世代にも広がる“見えない”孤立

孤独・孤立というと高齢者をイメージしがちですが、実は20〜50代の現役世代でも孤独を強く感じる人が増えています。

この世代は、福祉サービスなど公的な仕組みとの接点が少ないため、支援が届きにくいという特徴があります。家族との死別、転職・退職、心身の不調といった人生の転機でつながりが途切れるケースも多く、孤独・孤立が“静かに進行する”リスクを抱えているのです。

大西氏は、「社会的なつながりが弱い状態は、1日15本の喫煙と同じくらい健康に悪影響を及ぼす」と指摘。日本では約4割の人が孤独や孤立を感じており、社会的に弱い立場にある人ほど孤独が深まりやすい一方で、高所得層にも孤独を抱える人が少なくないとのこと。

「一見、困っていなさそうに見える人も、実は強い孤独を抱えている場合がある」。そうした現実を、データとともにわかりやすく示していただきました。

 

-つながりは“自然には生まれない”

孤独や孤立は、じわじわと社会全体に浸透していきます。日常的なつながりが弱まった状態で、経済的な困窮や病気、家族関係の変化といった他の課題が重なると、問題は一気に深刻化してしまうでしょう。

「孤独・孤立は、個人の努力だけで解決できるものではありません」。大西氏は、社会全体で取り組む必要性を強調しました。

福祉や支援制度といった“緊急対応”だけでなく、文化・芸術・スポーツなど、日常の暮らしの中に自然なつながりを育むことが重要です。

人と人がつながるには、「場所」「時間」「体験」「趣味」「課題」「満足」など、共通の“何か”が必要。相談窓口を設置するだけでは不十分であり、日頃から顔の見える関係を築いておくことの重要性を示しました。

孤独・孤立は誰もが関わる可能性のある課題です。行政だけでなく、民間企業や地域団体がそれぞれの分野・強みを生かして連携・協働することが求められています。

 

いの町が挑む、“つながり”を育てるまちづくり


前編3

いの町ほけん福祉課の発表資料より抜粋

 

続いて、いの町から取り組み事例の発表がありました。登壇されたのは、ほけん福祉課の渋谷氏と岡田氏。人口約2万人の小さな自治体ならではの強みを生かし、制度や組織の壁を越えて地域全体で支え合う仕組みを育んできました。

 

-顔が見えるネットワークで支え合う

いの町では、制度や分野の枠を越えて、人と人との“つながり”を地域の中で育む取り組みを進めています。

その一つが、「紙福連携」、「農福連携」と呼ばれる、伝統産業と福祉をつなぐ実践です。

町の伝統産業である和紙づくりでは、原料の「こうぞ」を蒸して皮を剥ぐ“へぐり作業”の担い手不足が課題でした。そこで、この作業を地域の福祉分野と結び、生きづらさを抱える人たちが利用者として関われる場を創出。農作業と組み合わせることで、利用者が地域とゆるやかにつながる“居場所”が生まれました。

こうした活動を通じて、利用者に合った居場所や機会を提供し、本人の生きがいや心の安定、地域との関わりを育むことで、自立や就業の機会にもつながっています。

また、児童クラブや習い事以外に子どもが放課後に安心して過ごせる場所が少ないという課題に対応し、地域主体の子育て支援ユニット「えだまめクラブ」も立ち上がりました。家庭や学校以外に“もうひとつの居場所”をつくることで、地域全体で子どもを支える体制が少しずつ形になっています。

 

-顔が見えるネットワークと“SOSを出す力”を育む

もう一つの柱が、自殺対策を軸としたネットワークづくりです。

いの町では、消防・警察・学校・医療・福祉・行政などが一堂に会する「いの町自殺対策ネットワーク会議」を年3回開催。日ごろから顔を合わせ、情報を共有しておくことで、いざというときに自然に連携できる関係を築いています。

「制度があるから動く」のではなく、「あの人に相談してみよう」と思える関係性を、地域の中に丁寧に育ててきました。

さらに、小中学校には保健師が出向き、社会で直面するさまざまな困難やストレスの対処法を身につける「SOSの出し方」講座を展開。子どもたちが披露するストレス解消法には、大声を出す、机をたたくといった一見ネガティブに見える行動が含まれることもありますが、それを全否定するのではなく、「人に迷惑をかけていなければ、自分なりに工夫できている証拠」と肯定的に受け止めています。

こうした姿勢が、子どもたちの安心感や信頼関係につながっています。

いの町の支援の根底にあるのは、「制度や枠に無理やり当てはめない」という姿勢。

一人ひとりに向き合う丁寧な取り組みが、地域の支え合いを少しずつ形にしているのです。

 

後編では、南国市社会福祉協議会とこうち生活協同組合の取り組み事例について紹介します。

 

記事執筆:是永 裕子

 

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