【取組紹介Vol.16】多様な人が集まり、つながる場づくり。高知県立大学「永国寺はらっぱフェス」の取り組み【後編】

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掲載日 : 2025/11/18

今回は高知県立大学で毎月開催されているイベント「永国寺はらっぱフェス」に関するインタビューの後編です。

永国寺はらっぱフェスは、誰もが当事者になり得る障害やメンタルヘルスの課題について、気軽に知識を得たり体験談を聞くことができる場です。

後編では、イベントの特徴的な取り組みであるヒューマンライブラリーについて深掘りしつつ、場づくりにおいて重視していること、さらに今後の展望を詳しく伺います。

 

※前編はこちらからご覧いただけます。


後編サムネイル

さまざまなバックグラウンドを持つ当事者との対話を通じ、参加者は学びや気づきを得る

(写真:高知県立大学)

 

「高知型地域共生社会」では、介護や子育て・就労困難者のサポートなど、分野を超えた包括的な支援体制の整備を進めています。その実現に向けて取り組みを行う県内各地の実践事例をご紹介します。

 

「当事者について知ること」が地域をつなぐ第一歩になる


後編2

毎回開催されるトークセッションでは、講師を招いて豊富なテーマを扱う

(写真:高知県立大学)

 

-永国寺はらっぱフェスには、主にどんな方が参加していますか。

 

(玉利助教)

その時のテーマによってさまざまですが、地域の人はもちろん、これまでヒューマンライブラリーやリカバリーカレッジ高知等で、精神疾患や発達障害、ピアの経験を持っている方たちと協働する取り組みを続けてきた関係で、当事者の参加も多くみられます。回によって人数の増減はありますが、30名から多いときで50名ほどお越しになり、第4回目となる今回は43名の参加がありました。

また、高知県立大学に興味を持っている高校生や、卒業生、実行委員の関係者も来てくれます。参加者の口コミで新しい参加者が来てくれることもあり、回を重ねるごとに新しいつながりが生まれている印象です。

 

-参加者からはどのような声が聞かれますか。

 

(宮脇さん)

「今まで知らなかったことを知れて良かった」という声をとても多くいただいています。例えば、アルコール依存症という単語は知っていたけど、どんな状態なのか知らなかったから理解できて良かったと言っている方もいました。

実は様々な背景を持っている人たちが身近にいると知ることは、地域の中で共に生きることへの第一歩だと思いますし、地域の人と当事者とが共に「在る」ことを通して、障害やメンタルヘルスへの理解を促すことはこのイベントの目的でもあるため、参加者が興味や関心を持ってくださるのはとても嬉しいです。

 

(玉利助教)

メンタル疾患を抱えていたり、ひきこもりをしていたりする方の話が自然と入ってくる体験は、このイベントならではだと思います。時にはトークセッションで重たい内容を扱うこともありますが、なぜかくすっと笑ってしまう雰囲気もあって、参加者の多くが「話を聞けて良かった」という感想を聞かせてくれます。

また、参加した学生ボランティアからは「こんな場が授業にもあればいいのに」という声が上がっています。机上だけでなく体験を通じた学びによって得るものは非常に多く、私やボランティアスタッフも毎回学ばせてもらっています。

 

本を読むように体験談を聞く「ヒューマンライブラリー」で広がる世界


後編3

ヒューマンライブラリーでは、実体験を語る「生きている本」との対話を通して

新たな出会いやつながりが生まれる

(写真:高知県立大学)

 

-イベントの柱の一つである「ヒューマンライブラリー(生きている本との対話)」とは何ですか。

 

(玉利助教)

ヒューマンライブラリーは、「生きている本」を貸し出す図書館です。障害や生きづらさを抱える当事者が「生きている本」となり、30分間「読者」と対話します。「生きている本」と「読者」の直接の対話を通して、他者の人生に触れ、共生について考えるきっかけになればいいなと思っています。

永国寺はらっぱフェスでは、毎回ヒューマンライブラリーを開催していますが、継続して開催しているうちに「自分も本として語ってみたい」という声が寄せられるようになりました。そこで、ヒューマンライブラリーの仲間たちと学生ボランティアが協力してミーティングを重ね、新しい「生きている本」が続々と生まれています。

 

-イベントの場づくりにおいて意識していることがあれば教えてください。

 

(玉利助教)

参加者の皆さんが自由に過ごせる、居心地の良い空間を意識しています。イベント内容としてはトークセッションやヒューマンライブラリーなどの柱を用意していますが、どれに参加してもOKです。中にはトークセッションのみを目当てにお越しになる方や、コーヒーを飲んで過ごすだけの方もいます。

人にはそれぞれタイミングがありますから、無理に何かにつなげるわけではなく、ニーズが芽生えた時に必要な情報が得られたり、新たな人に出会えたり、ふっとつながりたい人同士がつながれる場を目指しています。

 

小さな共生社会から大きなつながりへ。永国寺はらっぱフェスの未来

-永国寺はらっぱフェスが目指す、今後の姿についてお聞かせください。

 

(白岩教授)

長く永く続けることを何より大切にしたいですね。教職員や学生、ボランティアの皆さんと一緒に、お互いがおすそ分けできるものを持ち寄って、無理なくほどよい形で企画が続いていく姿を思い描いています。

このプロジェクトの目的は、これまでの障害やメンタルヘルスに対する価値観を、実践と思索を通して問い直すことです。過去の枠組みにとらわれず、私たち運営側が自由かつ柔軟なスタイルで関わること、そして実践と思索の行き来を全力で楽しむことこそが、参加者の居心地の良さにもつながっていくのではないでしょうか。

 

(宮脇さん)

このイベントの何より良い部分は、誰でもふらっと気軽に来て、あたたかい空気の中でメンタルヘルスについて学び合えるところです。今後も垣根なくさまざまな人を受け入れながら、一緒に理解を深めていける場所であればいいなと思います。

私自身、運営に参加したからこそ知れたことや気づきがたくさんありました。また、運営メンバーの仲間たちからはどんどん新しいアイデアが飛び出し、とても刺激をもらっています。ぜひ卒業まで関わり続け、より良い場づくりに貢献したいですね。

 

(玉利助教)

いろんな人がふらっと立ち寄れる場所を作る中で、企画を通じて生まれる出会いやつながり、その広がりに希望を感じています。今後も共生を目指す人や団体とつながって、一緒に企画を作っていければうれしいです。

私たちは本気で地域共生社会の実現について考えていて、その一歩として永国寺はらっぱフェスが「小さな共生社会」になるよう意識しています。障害のある人もない人も、メンタルヘルスの課題を持つ人もそうでない人も、自然に混ざり合える場が理想です。

共生という言葉はなかなか一筋縄では実現できず、その裏には多くの大変さもあると思いますが、今後も多様なテーマを扱いながら、大学だからこそできる新しい価値観や枠組みづくりにチャレンジしていきたいと思います。

 

 

永国寺はらっぱフェスは、誰もが自然に混ざり合える場づくりに加え、学生・教員・ボランティア・メンタルヘルス当事者が一体となってつながりを生み出す「地域共生社会」の実現に向けた一歩を踏み出しました。

ふらっと立ち寄れる気軽さと、偶然の出会いから生まれる学びや気づき。そんなあたたかな循環がこのイベントの特長です。これからも“はらっぱ”から地域へと、少しずつ共生の輪が広がっていくことでしょう。

本日はお話をお聞かせいただきありがとうございました。

 

 

記事執筆:ことのは舎

 

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