【取組紹介Vol.16】多様な人が集まり、つながる場づくり。高知県立大学「永国寺はらっぱフェス」の取り組み【前編】

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掲載日 : 2025/11/11

今回は高知家地域共生社会推進宣言団体である高知県立大学で毎月開催されているイベント「永国寺はらっぱフェス」に関するインタビューを行いました。

永国寺はらっぱフェスは、メンタルヘルスに関するトークセッションやヒューマンライブラリーなどを通じてさまざまな背景を持つ人とのつながりが生まれるイベントで、「多様な人が互いに認め合える共生社会が自然と発生する場」を目指しています。

社会福祉学部の玉利助教、文化学部の白岩教授、そして社会福祉学部3回生の宮脇さんに、永国寺はらっぱフェスの実行に至るまでの背景・想いについて伺いました。

 

※後編はこちらからご覧いただけます。


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「永国寺はらっぱフェス」参加者と一緒に製作したのぼり旗

(写真:高知県立大学)

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永国寺はらっぱフェス

高知県立大学 永国寺キャンパス 地域交流広場(緑の広場:はらっぱ)および食堂で開催するイベント。2025(令和7)年2月にプレイベントを実施し、第1回として本格始動した5月以降、ほぼ毎月開催してきました。そして、多様な背景・専門性をもつ教職員や実行委員・学生・ボランティアスタッフが集まり、今までのメンタルヘルス観をリ・デザインすることを理念に掲げ、地域とのつながりを創出する場として実施しています。

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「高知家地域共生社会」では、介護や子育て・就労困難者のサポートなど、分野を超えた包括的な支援体制の整備を進めています。その実現に向けて取り組みを行う県内各地の実践事例をご紹介します。

 

 高知県立大学が取り組む「永国寺はらっぱフェス」とは


写真2

「永国寺はらっぱフェス」について語る、社会福祉学部3回生の宮脇さん(左)と玉利助教

(写真:高知県立大学)

 

-永国寺はらっぱフェスの概要についてお聞かせください。

 

(玉利助教)

永国寺はらっぱフェスは、さまざまなイベントを通して「自由な空間で、いろんな人と一緒に“元気の種”を見つけ、たねまきをする」プロジェクトです。

キャッチコピー「はずして、つくって、やぶって、かいて」には、企画を通して、メンタルヘルスに対する従来のイメージや価値観を問い直し、さまざまな背景を抱える人たちとの共生や地域のつながりを創出していきたいとの想いが込められています。

2025(令和7)年2月にプレイベントを行い、同年5月からはほぼ毎月1回、週末イベントとして開催しています。

 

-プレイベントは、どういった内容を行いましたか。

 

(玉利助教)

プレイベントでは、高知市のアートセンター画楽※と協働し、参加者とアートを通してコミュニケーションを取る企画を行いました。大人も子どももペンキだらけになりながら、楽しそうに作品を作り上げる姿が印象に残っています。

2025(令和7)年2月にプレイベントを行い、同年5月からはほぼ毎月1回、週末イベントとして開催しています。

 

※障害のある人に創作的活動の機会の提供などを行っている事業所

 

(宮脇さん)

参加者の様子を見て感じたのは、「当事者と関わることが障害やメンタルヘルスの理解につながる一番の近道なのではないか」ということです。アートセンター画楽のスタッフには、発達障害を抱えた方も在籍しています。しかし、参加者は障害の有無や性別、年齢を越えて、互いに「上手だね」と褒め合いながら、アートで自分らしさを表現していました。

授業などで知識を得るだけでなく、実際に関わってコミュニケーションをとり、自分の目で見て理解することが重要だと改めて実感したイベントでした。ともに地域で生きる「共生社会」は、きっとこういうところから生まれるのだろうなと思いました。

 

-イベントの主な内容について教えてください。

 

(玉利助教)

5月に開催した第1回では、プレイベントと同じくアートセンター画楽の協力を得て、永国寺はらっぱフェスののぼり旗を製作しました。

その他の回では、アルコール依存症の当事者やひきこもり経験者をトークセッションのゲストに迎えて、高知県立精神保健福祉センターや高知市保健所の方と対談する形で、当時の体験や今の思いについてお話しいただきました。

永国寺はらっぱフェスでは、基本的には、メンタルヘルスに関する講話とヒューマンライブラリー(メンタルヘルスに課題を抱えた経験を持つ当事者と直接対話する場)を同時開催し、メンタルヘルス関連のおすすめ書籍の紹介もしています。カフェサークルの学生や県内のカフェが出店してくれる回もあります。

 

誰もがふらっと立ち寄り、メンタルヘルスの関心につながる場所にしたい

-永国寺はらっぱフェスを立ち上げるに至った背景についてお聞かせください。

 

(玉利助教)

永国寺はらっぱフェスの前身となる取り組みに、「リカバリーカレッジ高知」があります。これは、文部科学省の委託を受けて2022(令和4)年度から実施している事業で、精神障害や発達障害など生きづらさを抱える人たちと専門職とが一緒になって、メンタルヘルスや「よりよく生きること」について互いに学び合える場を提供しています。

ただ、リカバリーカレッジ高知に参加するのはすでにメンタルヘルスに理解・関心がある方。地域共生社会を創出していく上では、「メンタル不調は自分とは関係ない」と思っている人たちにも、メンタルヘルスに興味を持ってもらえるといいよね、という話は度々出ていました。

そこで生まれたのが永国寺はらっぱフェスです。リカバリーカレッジ高知でつながりができた皆さんは、今もさまざまな形で協力をしてくださっています。

 

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リカバリーカレッジ高知

高知県立大学が文部科学省「大学・専門学校等における生涯学習機会創出・運営体制のモデル構築」による助成を受け、2022(令和4)年度から実施しています。(一社)りぐらっぷ高知との協働で立ち上げ、現在も協力関係にあります。

医療でも福祉でもなく、「学び」によって個々のリカバリーやメンタルヘルスについて主体的に考える場です。専門職講師と共に、精神的に困難な経験をした人がピア講師となり、メンタルヘルスに関心のある誰もが学び合えるプログラムを提供しています。

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-永国寺はらっぱフェスが目指す理想の場づくりとは、どのようなものなのでしょうか。

 

(玉利助教)

メンタルヘルスは「心の健康」ですから、誰でも元気がなくなったり、時に病気になったりするものです。しかし、現状では「自分には関係ない」と無関心だったり、拒否的に捉えてしまう場合もあるのではないでしょうか。それが時にメンタル不調の人たちへの偏見につながり、生きづらさを抱えている人が声を挙げられない土壌を作る可能性もあります。

だからこそ、永国寺はらっぱフェスでは関心がある人もない人も、大人も子どももより多くの人に届く企画にすることが必要だと思いました。

高知県立大学にははらっぱがあります。はらっぱとは本来、その人の想像次第で自由自在、何にでもなる場だと私は考えます。そんな素晴らしい場を活用しつつ、地続きにある食堂も会場にして開放的にやろうというのが、永国寺はらっぱフェスです。

会場にふと立ち寄り、自然とメンタルヘルスに興味がわいてきたり、参加者が「面白い」と感じられるような内容を届けていければと思っています。

 

教職員・学生・ボランティアが一緒になって作り上げるイベント


写真3

玉利助教の声かけに応じ、初回のイベント企画・運営から協力している白岩教授

(写真:高知県立大学)

 

-永国寺はらっぱフェスの開催においては、学内でも多くの方の協力を得ているそうですね。

 

(玉利助教)

新しい価値観に挑戦する取り組みですから、共通して同じものを目指していける方々に声をかけたいと思いました。白岩先生は以前から著書やトークイベントなどの活動でお考えを知る機会があり、当事者への眼差しやケアの視点、福祉マインドにあふれた方だと感じていたため、ぜひ!とお誘いしました。他に、社会福祉学部 准教授の河内先生にも協力いただいています。

最初に教職員が中心となって企画の目的・方針などの基盤を作ったあと、具体的な内容や運営は、学生やボランティアの皆さんと一緒に何もないところから考えました。学生、ボランティア、教職員、それぞれが萎縮することなく、強みやアイディアがどんどん活かされていくような場を目指しています。

 

-白岩教授と宮脇さんは、イベントの内容や協力の呼びかけを聞いてどのように感じましたか。

 

(白岩教授)

玉利先生が中心となって本企画の構想が始まった頃、学部をまたいで実践することに大きな意義があるように感じました。その思いを「社会福祉のことを社会福祉の領域だけで収めない、なぜなら福祉は人類のためのものだから」というメッセージとして受け取り、参加を決めました。

大学は学部や研究科ごとに編成が決まっているため、どうしても専門が細分化しがちです。私は人文学が専門ですが、人文学は英語で〈ヒューマニティーズ/Humanities〉。つまり〈ヒューマニティ/Humanity/人間性〉が複数あって初めて、人文学が成立します。

それら複数の人間が「競争」して奪いあうことに主眼を置けば、最後に残るのはたった一人です。けれども、本来の人文学は「共創」がコアとなる学問です。すでにこの世から去ってしまった死者たちを含め、無数の人間性が集まって社会のセーフティーネットを繊細に編んでいく作業は、人文学と社会福祉の双方に共通する重要な使命だと思います。そんな考えもあって、今回の玉利先生の声かけに応じました。

 

(宮脇さん)

私は以前から「授業の中だけでは学べないことがある」と考えていました。そんなときに玉利先生が授業の中で「こんな企画をします」と紹介してくれて、斬新で魅力的だと感じ、すぐに「参加したいです」と連絡しました。イベントを通して実際に当事者と関わり、感じ取ることでしか得られない気づき・学びを得たいと考えたからです。

授業で習って頭でわかっていることも、実践してみるとできないことは多くあります。知識は使って初めて自分の力になりますが、自ら行動しなければその力は身につかないと感じています。もちろん、いつも上手に知識が使えるわけではありません。でも学生のうちからトライアンドエラーを繰り返しながら「どうすればいいのか」を考え実行することで、将来より良い福祉を創り上げることができる人になれたらと思っています。

 

-永国寺はらっぱフェスを通して参加者が出会いや気づきを得ることはもちろん、運営側も共創し、共生社会の実現に向けて取り組んでいることが伝わってきます。

 

(玉利助教)

変化の激しい時代において、従来の福祉観を伝えるだけでは、学生たちが社会に出たときに壁にぶつかる可能性があります。教員は教える側、学生は教えられる側という枠組みを超えて、今後の社会を担う学生が自分たちで考え、行動できる場を作る重要性を感じています。

誰もが対等に関われる永国寺はらっぱフェスでは、学生を含む多くの人の力を借りて「これからの社会をこんな風にしたい」というイメージを一緒に作っていきたいと思っています。これまでの考え方や自分自身の枠を「はずして、つくって、やぶって、かいて」、このイベントがそれぞれの人にとって新たな価値観を得られる場になるのでは、と考えるとワクワクします。

 

 

メンタルヘルスや共生社会というと、少し難しいテーマに感じるかもしれません。しかし、永国寺はらっぱフェスではアートやトークセッションなどを通して、日常の延長でふらっと立ち寄り学べる工夫がたくさんありました。

印象的だったのは、学生も教職員もボランティアも、それぞれの立場を超えて一緒にイベントをつくっていること。参加する人だけでなく、運営する側にとっても新しい学びや気づきを得られる場であることがわかりました。

後編では、「永国寺はらっぱフェス」の特徴的な取り組みであるヒューマンライブラリーと、今後の展望について詳しく伺います。

 

記事執筆:ことのは舎

 

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