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- 【取組紹介Vol.14】 子どもたちが安心できる居場所を地域とともに築く 社会福祉法人みその児童福祉会 高知支部の取り組み【前編】
今回は高知家地域共生社会推進宣言団体である「社会福祉法人みその児童福祉会 高知支部(高知市)」にインタビューを行いました。支部長の谷本さんと、高知支部が運営する児童養護施設「高知聖園天使園」の副園長・坂本さんに、支部の多岐にわたる事業や、子どもたちとそのご家族を支える日々の取り組みについてお話を伺いました。
※後編はこちらからご覧いただけます。
「高知家地域共生社会推進宣言書」を持つ支部長の谷本さん
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社会福祉法人みその児童福祉会高知支部
岡山県に本部を置く社会福祉法人みその児童福祉会の高知支部は、2008(平成20)年に社会福祉法人聖心の布教姉妹会から福祉事業を引き継ぎ、運営を開始しました。児童養護施設、乳児院、児童家庭支援センターなどを展開し、子どもたちの暮らしを支えるとともに、保護者や地域との関わりにも力を注いでいます。
“地域社会のニーズを的確に把握し、速やかに対応する”をモットーに、子どもと家庭、地域があたたかくつながる関係づくりを進めています。
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「高知家地域共生社会」では、介護や子育て・就労困難者のサポートなど、分野を超えた包括的な支援体制の整備を進めています。その実現に向けて取り組みを行う県内各地の実践事例をご紹介します。
100年の歴史を受け継ぎながら、子どもたちに寄り添う
複合棟「misono」(提供:社会福祉法人みその児童福祉会)
-「みその児童福祉会 高知支部」の歩みについて教えてください。
谷本さん:当法人の前身である「社会福祉法人聖心の布教姉妹会」は1920(大正9)年に秋田県で設立され、100年以上の歴史があります。もともとは修道院のシスターたちによって始められたもので、カトリックの「慈しみの心」を大切にしながら、困難な境遇にある子どもたちを受け入れてきました。高知支部では、2008(平成20)年から現在の法人が運営や職員も引き継ぎ、地域に根ざした福祉活動に取り組んでいます。
現在も、「慈しみの心」という精神を引き継ぎそれぞれの個性を尊重した支援を心がけています。
-2024(令和6)年に完成した複合棟「misono」は、どのような施設なのでしょうか。
谷本さん:新しい複合棟には、児童養護施設「高知聖園天使園」、乳児院「高知聖園ベビーホーム」、児童家庭支援センター「高知みその」「高知ふれんど」、里親支援センター結いの実、高知支部の各事業を統合した形で整備しました。災害時のリスクにも対応できるよう、岩盤までしっかり基礎を打った構造になっており、防災拠点としての役割も担える設計になっています。
-「高知聖園天使園」では、“家庭的養育化”に取り組まれているそうですね。
谷本さん:昔は大部屋での集団生活が中心でしたが、「できるだけ家庭に近い環境を」ということで、2018(平成30)年頃から仕切りを作ったり改修したり、少しずつユニット化*していきました。複合棟になって、完全に個別の家が完成したという流れです。(*子どもたちの生活単位を、より家庭に近い少人数(4~6人)で構成すること)
昔、施設で生活していた方から「泣く場所がなかった、泣く場所がトイレだった」と聞いたことがあり、ある程度の年齢になったら、自分ひとりで過ごせる場所が必要だとずっと感じていました。
-“自分だけの空間”は必要なのですね。ユニット化したことにより、子どもたちに変化などはありましたか。
坂本さん:今は、各ユニットの玄関も別々で、子どもたちは、まるで家庭のような雰囲気で暮らしています。最初は個室に慣れていなかった子も、今は自分のスペースができたことで、イライラしたときなどはそこにこもることができるようになりましたね。
地域に根ざした暮らしの実践
-ユニット化によって安心できる空間が整う一方で、地域と関わった暮らしにも取り組まれているとうかがいました。「地域小規模児童養護施設」、「小規模グループホーム」についてもお聞かせください。
谷本さん:10年ほど前に地域にある一軒家などで、少人数で暮らす「地域小規模児童養護施設」の存在を知り、導入に向けて動き出しました。複数の子どもが住める場所(ホーム)を見つけるのに苦労しましたが、皆で一から作り上げていきました。
坂本さん:今では地域に4か所の子どもたちが暮らす家がありますが、それぞれの地域の子ども会や町内会行事に参加したり、職員がホームの子どもたちが通う学校の役員をしたり、積極的に地域と関わりを持っています。
ご近所づきあいもあり、お隣の方にサンタクロースになってもらったことも。地域の方には本当によくしてもらっています。
そして、近所の子どもたちもホームに遊びに来てくれるなど、うちの子どもたちも地域に溶け込んでいます。「(施設ではなかなか難しかったけれど)今の家なら友達を呼べる」と子どもたちも喜んでいますね。普通のご近所同士の交流をしています。
地域に根ざした暮らしの実践
子ども食堂「みその食堂」のプレイエリアの様子(提供:社会福祉法人みその児童福祉会)
-今年(2025(令和7)年)の春から再開された子ども食堂「みその食堂」についてもお聞かせください。
坂本さん:もともとは2018(平成30)年に修道院のホールを活用してスタートしました。施設の近くの公園などで、子どもたちが遅くまで過ごしている姿を見かけたことから、地域の子ども達の居場所づくりもしたいというのもきっかけです。
コロナ禍や施設の建て替えにより一時休止していましたが、複合棟の完成を機にこの春から再開しました。
子どもたちが大好きなカレーをメインに、サラダやデザートなどを用意しています。調理場の職員が、いただいたお野菜などをあの手この手でアレンジして作っていますよ。
谷本さん:想像以上の反響があり、多い日には100名以上の方が訪れます。子どもたちだけでなく、ご高齢の方、保護者など、地域のさまざまな方が一緒に食卓を囲んでいます。
-子ども食堂を通して、見えてきた課題や印象的なエピソードなどはありますか。
谷本さん:食事の時間に親がいない子、寂しそうな子も来てくれていると思います。ただ、ここで和やかに食事をしているなかでは直接見えにくいので、「そういう子もいるんだろうな」という気持ちで関わっていますね。
坂本さん:毎回来てくれる親子もいらっしゃいます。児童家庭支援センターの職員もいるので、職員にお子さんを預けて、お母さんはゆっくり食事しながら、周囲の方と何気ない会話を楽しまれています。
-児童家庭支援センターのプロフェッショナルな職員の方にお子さんを見てもらえるというのは、「みその食堂」ならではの特徴かもしれませんね。
谷本さん:そうかもしれません。職員が手作りのおもちゃコーナーなども作っていて、ご飯を食べたらそこで遊べるようにするなど、いろいろな工夫をしています。
当法人には保育園もあるので、お迎えの帰りに、小学生のきょうだいも合流してみんなで食事をしたり、保護者同士の交流があったり、利用の形はさまざまです。地域の方はもちろん、どなたでも歓迎しています。
前編では、みその児童福祉会 高知支部に2024(令和6)年に完成した複合棟「misono」の特徴や、ユニット化によって実現した家庭的な暮らしについて伺いました。さらに、地域小規模児童養護施設の運営や子ども食堂の導入など、子どもたち一人ひとりを大切にしながら、地域と積極的に関わってこられたことが印象に残るお話でした。後編では、さまざまな課題を抱える家庭への支援や、防災教育をはじめとした地域に開かれた取り組み、そして今後の展望について詳しくお聞きします。
記事執筆:是永 裕子
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