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- 【取組紹介Vol.13】人と人がつながる認知症カフェ。「一陽病院」の取り組み【後編】
今回は「一陽病院(須崎市)」のインタビュー後編です。「認知症カフェ いちょうの樹」では、医療専門職と地域がつながり、認知症に関する困りごとを相談できる場の提供や前向きな日々を送るための支援を行っています。後編では、認知症カフェ運営における葛藤や院内で協力者を募る際の工夫、そして今後の展望について伺いました。
※前編はこちらからご覧いただけます。
認知症カフェの立ち上げメンバーの一人である、看護師長の峰さん
(写真:ことのは舎)
「高知型地域共生社会」では、介護や子育て・就労困難者のサポートなど、分野を超えた包括的な支援体制の整備を進めています。その実現に向けて取り組みを行う県内各地の実践事例をご紹介します。
参加者ゼロでも諦めなかった「いちょうの樹」の活動
講話は院内の医師や医療専門職が主に担当。わかりやすい内容で好評を集める
(写真:ことのは舎)
-「いちょうの樹」は2019(令和元)年10月にスタートしたそうですが、コロナ禍には思うように開催できない時期もあったのではと思います。
2019(令和元)年10月の第1回目のカフェでは院長が講話をし、20名以上の参加者がお越しくださいました。翌11~12月は10名以上が参加し、「このまま良い形で続けたい」と考えていた矢先のコロナ禍でしたので、少し落ち込みました。その後は安全性を考慮し、半年ほどお休みせざるを得ませんでした。
しばらく経って再開した際も、飲食の提供は中止して講話を30分と質疑応答30分のみの短時間とし、参加者同士も十分に距離を取ってマスク着用・アルコール消毒実施のうえで開催しました。
お休みした期間が長かったこともあり、2023(令和5)年5月にコロナウイルス感染症が5類に分類されるまでは、参加者ゼロの回も珍しくありませんでした。あまりにも少ないので「もうやめてしまった方がいいのかな」と弱気になった時期もありました。
-そんな中でも諦めずに続けてきた原動力は何でしょうか。
「認知症カフェは地域にとって必要な場だ」という強い想いがあったからです。参加者が少ない時期には、院内から「講話形式ではなく軽い運動なども取り入れた方がいいのでは」といった意見も一部ありました。しかし、私たちが目指すのは認知症への正しい理解の浸透と、マイナスイメージの払拭です。その目的に照らすと、やはり会話をベースとした形式で開催することが重要だと考えました。
2023(令和5)年6月からは飲食提供を再開し、プログラムも2時間に戻した形で再始動しました。復帰後の第1回目は、高知県内でデイサービスを運営し、自身も若年性認知症の当事者である山中しのぶさんに講話をお願いしました。
その後も10人前後の参加者が途切れずに来てくださり、一部の顔ぶれは常連さんになりつつあります。いい雰囲気の中で、参加者同士のつながりはもちろん、医療専門職とのつながりもでき始めています。
対話と体験によって理解者を増やし、認知症カフェを支える人材を育成
認知症カフェ開催後は振り返り会を行い、参加した職員が意見・感想を交わす
(写真:ことのは舎)
-毎回10名体制で運営する「いちょうの樹」では、院内で協力者を集める際にどのような工夫をしていますか。
「いちょうの樹」開設前の準備段階から私が考えていたのは、長く続けていくためには人員面と金銭面のバックアップが必要だということです。ボランティアでもやれないことはありませんが、継続という視点で見れば協力者は多い方が良いと考えました。
そこで院長に「認知症カフェを院内で開設したい」と相談したところ、ぜひやりましょうと言っていただき、生活支援部長や看護部長と一緒に他県の事例を視察しました。加えて、院内で職員を対象とした研修を2回実施し、認知症カフェの目的や内容を周知する機会も設けました。
今では毎月第2土曜日の認知症カフェを勤務時間として扱い、毎月担当制で院内の各部署から一人ずつ職員に参加してもらうスタイルとなっています。病院全体で取り組むからこそ、数多くの医療専門職が参加者の困りごとに向き合える場所をつくることができています。
-実際に認知症カフェに参加した職員の皆さんからは、どのような声が寄せられていますか。
院内研修だけでは認知症カフェのイメージがいまいちわからないと話す職員も多かったのですが、実際に参加すると「もっと硬い雰囲気かと思ったけど、たくさんの笑顔が見られた。身構えることなく楽しく参加できる場所だった」という声が多数聞かれています。
カフェの終了後には全員で振り返り会をしますが、そこで職員から寄せられた意見を参考にしながら次回の改善点としてつなげています。加えて院内用のチラシを毎月作成し、「今回はこんな内容で開催しました」と各部署に配布することで、認知症カフェがどんな場所なのかを一人でも多くの職員に知ってもらうことに努めています。
同じ目線で話し、伝える。地域に根づく認知症カフェを目指して
-「いちょうの樹」の今後の展望についてお聞かせください。
継続していくことが最も大切だと考えています。何か新しい要素を加えるよりも「認知症は誰しもなる可能性があり、マイナスイメージを持つ必要はない。認知症になったとしてもできることはたくさんある」という私たちの伝えたい軸を、ぶれずにしっかりと持ち続けることが重要です。
そうすれば認知症を必要以上に恐れることなく、安心して生活できることにつながると思います。医療専門職が参加者の皆さんと同じ目線に立ってお話しながら、困っている人がいたら手を差し伸べられる場所として「いちょうの樹」を提供し続けたいですね。それが支え合う地域づくりの一端を担うことにもなると思います。
-その想いに共感してくれる職員の皆さんとともに、今後も多くの方に「いちょうの樹」の活動が広がっていくといいですね。
私をはじめ、立ち上げメンバーは「一つのことを成し遂げるには10年以上かかる」という決意のもと認知症カフェを開設しました。地域への浸透にしても、院内への周知にしても、根付いた意識や文化を変えることは1年や2年では簡単に達成できないと思います。
院内では、今ようやく半分ほどの職員に認知症カフェを知ってもらうことができました。実際に雰囲気を体験した職員が宣伝塔となって周囲の人々に波及したり、職員向けのチラシを通じて情報共有したりして、院内全体に認知症カフェの意義が伝わるまで地道な理解促進を続けるつもりです。
じっくりと院内外へ「いちょうの樹」の存在感を示しながら、認知症当事者やそのご家族が安らげる場所、地域の人々にとって困ったときに頼れる場所であり続けることが理想です。
認知症に対する不安を抱く方はまだまだ多いのが現状です。しかし「いちょうの樹」ではその不安を言葉にできること、そして耳を傾けてくれる職員がいることが、参加者にとって何よりの安心につながっているのではないでしょうか。
「地域の誰もが集える、あたたかな拠りどころ」としての認知症カフェがこれから高知県内でさらに広がっていくことを願っています。学びの多いお話をお聞かせいただきありがとうございました。
記事執筆・写真:ことのは舎
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