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- 【取組紹介Vol.13】人と人がつながる認知症カフェ。「一陽病院」の取り組み【前編】
今回は高知家地域共生社会推進宣言団体である「医療法人 南江会 一陽病院(須崎市)」にインタビューを行いました。一陽病院では、毎月第2土曜日に「認知症カフェ いちょうの樹」を開催しています。認知症当事者はもちろん、その家族や地域の人など誰でも参加できるこのカフェには、「認知症になっても安心して暮らせる地域を作りたい」という想いが込められています。看護師長の峰さんに、「いちょうの樹」の設立・運営にかける想いについて伺いました。
※後編はこちらからご覧いただけます。
当日の会場には10数名が集まり、講話や参加者同士の交流タイムを楽しんだ
(写真:ことのは舎)
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医療法人 南江会 一陽病院
1967(昭和42)年に千里荘病院として開院し、2001(平成13)年に一陽病院へ改称しました。県内に5か所ある、高知県指定認知症疾患医療センターのうちの一つとしても知られています。精神科および老年精神科の専門病院として、外来・入院病棟のほかに入居型障害福祉サービス事業所や精神科デイケア、認知症カフェを運営。基本理念「An3 “アンスリー”」に則り、患者さんの安定・安心・安住につながる療養環境の提供や各種支援を行っています。
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「高知型地域共生社会」では、介護や子育て・就労困難者のサポートなど、分野を超えた包括的な支援体制の整備を進めています。その実現に向けて取り組みを行う県内各地の実践事例をご紹介します。
認知症当事者や家族を支える認知症カフェ「いちょうの樹」
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認知症カフェとは
認知症の当事者やその家族、認知症について知りたい人、医療やケアの専門職などが気軽に集まり、和やかな雰囲気のもと交流を楽しむ場。厚生労働省がとりまとめた「認知症施策推進大綱」では、認知症の人や地域の人が専門家と相互に情報共有し、互いを理解し合う認知症カフェの設置を推進している。高知県内には2025(令和7)年3月31日時点で、27市町村133箇所(休止中含む)の認知症カフェが設置されている。
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-認知症カフェ「いちょうの樹」を設立した経緯についてお聞かせください。
「いちょうの樹」は、2019(令和元)年10月にスタートしました。同年3月に東京で開かれた認知症カフェモデレーター研修(オランダ発祥のアルツハイマーカフェの理念をもとにした、認知症カフェ企画運営者を育成する講座)に参加し、その必要性を強く感じたことがきっかけです。
当時は当院にまだ認知症のピアサポート(同じ悩みを持つ人が集まり支え合う活動)がなかったため、患者さんが認知症と診断された後のケアとしてカフェを活用できないかと考え、研修の受講を決めました。
あわせて県外で行われている認知症カフェの先行事例を視察し、「認知症の理解を地域の人々に広めることで、認知症当事者が安心して過ごせる場所が少しでも増えれば」との考えをますます強くし、院内の協力者を募ったうえで「いちょうの樹」開設に至りました。
-どのようなプログラムで実施していますか。
8月と1月を除く毎月第2土曜日、13時から開催しています。タイムテーブルは、(1)カフェタイム (2)講話 (3)カフェタイム (4)質疑応答という30分ずつの4部構成、合計2時間の内容です。おやつと飲み物を楽しみながら参加者同士が交流したり、医療専門職に気軽に相談できる場を提供しています。
-「いちょうの樹」開催の目的について教えてください。
当院が認知症カフェを行う目的は、誰もがなり得る認知症への理解を深めることです。認知症に対してマイナスイメージを持つ方はまだまだ多いですが、認知症になったとしてもできることはたくさんあります。
認知症を必要以上に恐れることなく、健康で前向きに長い人生を送るためのヒントを伝えたり、参加者が交流する中で同じ悩みを持つ人たちと支え合える場にできればいいなと考えています。
顔なじみが増えるのが嬉しい。地域のつながりが生まれる場所
職員が参加者を笑顔で迎え、会場内にはあたたかな雰囲気が流れる
(写真:ことのは舎)
-どのような方が「いちょうの樹」に足を運んでいますか。
当院の患者さんとそのご家族、そして地域の方々がお越しくださっています。よく来てくださる常連さんもいて、講話の内容を事前にチラシやWEBサイトで見たうえで、興味があればお友達を誘って参加してくれる場合もあります。
-参加者から寄せられた感想で印象に残っているものがあればお聞かせください。
表立って「良かった」という声が聞ける機会は少ないのですが、常に10名以上の参加者が集まり、顔なじみの方が何度も来てくださるということは「興味がある」「次も行ってみよう」という気持ちになってくれているのではと受け止めています。
参加者が過ごしやすく、来て良かったと思える場づくりや、また次につながる関係性づくりにはかなり力を注いでいます。切れ目なく通ってもらい、困った時にここで声を上げれば手を差し伸べられる場所にしたいと考えているので、何度も参加してくれる方の存在はとても嬉しいですね。
“何でも聞ける”がここにある。参加者に寄り添う場づくりへのこだわり
医療専門職(写真右)が参加者に声をかけ、困りごとがあれば耳を傾ける
(写真:ことのは舎)
-医療機関が認知症カフェを設置するのは、まだまだ珍しい事例だと思います。医療機関が実施するからこその強みは何でしょうか。
「いちょうの樹」には、医師・看護師・作業療法士・社会福祉士・心理士に加え、言語聴覚士や医療相談員など、合わせておよそ10名の職員が毎回参加します。2時間の中で2回あるカフェタイムでは、医療専門職が積極的に参加者と会話し、困っていることはないかお話を聞きます。
参加者の中には、「最近もの忘れが多い気がする」とか「認知症の家族のケアをするとき、こんな場面ではどうすればいいだろう」とお悩みの方もいます。その際、医師が対応した方がいいケースであれば医師に引き継いだり、作業療法士や看護師が対応したり、医療相談員が情報提供したりと柔軟に関わり合うことを意識しています。
参加者の皆さんから見ると、医療専門職からその場でアドバイスがもらえる安心感があると思います。抱えている疑問や不安に対して何らかの回答が得られれば、次の日からも安心して生活が送れるのではないでしょうか。
-医療専門職と話すというと堅苦しい場を想像しがちですが、「いちょうの樹」は雰囲気が終始あたたかく、とても和やかな印象がありますね。
参加者の皆さんと医療専門職がフラットな関係で話せるよう、職員は全員私服で参加します。制服や白衣だとどうしても話しかけづらかったり、緊張してしまう方もいるからです。そんな壁をすべて取り払って、「私たちも地域の皆さんに溶け込んで同じ目線・同じ立場で認知症を考えているよ」と伝えることにこだわっています。
また、プログラムすべてに共通することとして、認知症の当事者やご家族の気持ちを一番大切に考え、それぞれの葛藤や困りごとに配慮した伝え方・寄り添い方も意識します。ここに来てくださった方全員が明るい気持ちになってくれるよう、そしてこれからも前向きに生活できるように、参加者の雰囲気や状態にあわせた関わりには全員で気を配っています。
「認知症の当事者やその家族が安心して暮らせる地域をつくりたい」そんな想いから生まれた「いちょうの樹」は、病院という枠を越えて地域とやさしくつながれる場所です。医療の専門性を活かしつつ、参加者と同じ目線で向き合う姿勢は非常に印象的でした。誰もが気軽に話しかけられる雰囲気づくりに心を砕く、細やかな配慮の積み重ねが「また来たい」と思える場を育てているのだと感じます。
後編では、「いちょうの樹」運営にあたって院内の協力者を募る際の工夫や、今後の展望について掘り下げていきます。
記事執筆・写真:ことのは舎
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