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- 【取組紹介Vol.9】地域とつながり、親子を支える。子育て支援センター「いるかひろば」の取り組み【後編】
今回は「子育て支援センター いるかひろば(高知市)」のインタビュー後編です。いるかひろばでは、小学生以上の子どもを持つ人への子育て支援や交流の場を提供しています。地域交流の内容と今後のセンターの展望について、理事長の土居さんにお聞きしました。
※前編はこちらからご覧いただけます。
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子育て支援センター いるかひろば
2007(平成19)年、港孕保育園の建て替えに伴い、同園敷地内に子育て支援センターを設立。その後、2019(令和元)年に「NPO法人いるかひろば」立ち上げとともにセンターの事業を引き継ぎました。子ども家庭庁が推進する地域子育て支援拠点事業に沿って、(1)子育て親子の交流の場の提供と交流の促進 (2)子育て等に関する相談・援助の実施 (3)地域の子育て関連情報の提供 (4)子育て及び子育て支援に関する講習等の実施という4つの事業を軸に、とことん寄り添った支援を実践しています。
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おうちじゃないけど、安心して笑顔になれる場所です
(写真:ことのは舎)
「高知型地域共生社会」では、介護や子育て・就労困難者のサポートなど、分野を超えた包括的な支援体制の整備を進めています。その実現に向けて取り組みを行う県内各地の実践事例をご紹介します。
小学生にも交流の場を。子どもたちと地域をつなぐ取り組み
いるかひろばに通う小学生が書いた、夏祭りの企画書
(写真:ことのは舎)
-いるかひろばでは、未就園児・未就学児だけでなく小学生が利用できる日も設けているそうですね。
一般的に子育て支援といえば、小学校入学までという認識があると思います。しかし、いるかひろばではより幅広い支援をしたいと考えて、土曜日の午前に月2回の小学生親子との交流日を設けました。小学生が小さい子たちに絵本の読み聞かせをしたり、歌遊びを一緒にしたり、作品づくりをしたりして過ごします。
乳児期からいるかひろばに通っている子も多く、クリスマス会や運動会では私たち職員とともに運営のお手伝いをしてもらうなど、小さい子たちのお世話に奮闘する微笑ましい姿を見ることができます。
-小学生にとってはもちろん、利用者の皆さんにとってもお子さんの成長した姿を見られる貴重な機会ですよね。
小学生親子との交流を通して、利用者や職員から「夏祭りっていいよね」という言葉が出たのをきっかけに、今年初めて夏祭りをやることになりました。さっそく小学生が企画書を作ってくれて、8月にみんなで手作り夏祭りをしようと準備を進めています。
子どもたちにとっても、自分が考えたものが形になってみんなが楽しんでくれたら、きっと自信につながるのではと思います。そういった「やってみたい」をしっかりキャッチして膨らませ、形にしていくのが私たちの仕事です。
どこにいても一人じゃない—いるかひろばが差し伸べる支援の手
-遠方に住む人や、なかなか遊びに来られない方にはオンラインでの育児相談も実施していると伺いました。どういった方が利用していますか。
コロナ禍をきっかけに、オンラインいるかひろばを立ち上げました。歌遊びや絵本の読み聞かせの時間にオンラインでつながって利用者と一緒に楽しんでもらったり、育児相談もできます。高知県出身で転勤に伴い県外・海外に引っ越しした方や、里帰り出産でいるかひろばを利用してくださった方などとつながりを持てるツールとして活用しています。
-県外や海外にまで利用者がいらっしゃるのですね。県外に行っても相談できる人がいると大きな心の支えになるのではと思います。
県外で暮らす利用者とは、オンラインも含めて定期的にお会いして相談に乗ります。子育てに関する悩みは家庭ごとに違いますし、それぞれのお子さんによっても違いますから、支援に終わりはないのです。
加えて、特性のあるご家族との関わり方を模索したり、DV被害から抜け出すなど悩みの解決には時間がかかることも少なくありません。そこを諦めず、一人ひとりに寄り添う支援を大切にしたいと考えています。
-ここまで支援の手を広げることは、当初から計画としてあったのでしょうか。
広げようと意図したわけではなく、利用者の気持ちを聞いているうちに気づいたら今の形になっていました。いるかひろばが利用者の相談に乗る際、常に大切にしているのは「何がつらいと思っているのかをしっかり拾い上げたい」ということです。
時には利用者から聞いた内容を文字で書いて可視化します。すると利用者自身が悩みを整理してとらえることができ、解決の糸口がつかめる場合もあります。そして必要に応じてアドバイスをしますが、その場合も「これがいいですよ」と一つに決めません。「Aもあるし、Bもあるし、Cもある」というように、あの手この手を伝えるようにしています。その中からご家庭や利用者自身に合う方法が見つかればいいなと考えています。
それぞれの利用者のペースを尊重しつつ、寄り添い続けたい
いるかひろばの今後について語る土居代表
(写真:ことのは舎)
-いるかひろばの活動全般を通して、特に大事にしている軸についてお聞かせください。
一人ひとりの気持ちを大事にして寄り添いたい、その想いがすべての中心にあります。もともと意地悪な子はいないし、生まれながらに人を叩く子もいません。きっと背景に何かがあるはずです。なぜそんな行動をするのかを子どもの視点に立って考えることが大切です。
お子さん一人の問題ではなく、両親や家族全体にまで目を向け、もしSOSがあれば拾い上げたいと考えています。それは大人も同じで、過去や現在の状況に何かがあって、そこから子育ての悩みが出ているものの上手く言葉にできない方も多くいます。その後ろにある課題を気軽に言える場所にしたいという想いもあります。
-利用者から寄せられた声で印象に残っているものはありますか。
子育て支援センターに来る方の多くは、少し気合いを入れていつもと違う自分で出かける場合があります。しかし、いるかひろばは「ありのままでいられる場所」を目指しています。お子さんの着替えが大変ならパジャマで来ても構いません。実際に来所してから職員が着替えを手伝ったことは何度もあります。
利用者から「ここでは素の自分でいられる」という声を聞いたことがありますが、嬉しくもあり切なくもありました。これは裏を返せば、自分らしさを見せられる場所が少ないということだからです。こういった一言は絶対に聞き逃してはいけないと再確認した経験でした。
-最後に、いるかひろばの今後の展望について教えてください。
私が普段から職員や利用者の皆さんに伝えているのは、「いるかひろばはみんなで作る場所」ということです。理念である「利用者の気持ちに寄り添った支援」を大きな軸としつつ、そのために職員一同で何ができるのかを常に考えています。何か目標を決めてチャレンジするというよりは、利用者の求めることに合わせてこれからも柔軟に支援の形を変化させていくのが理想の姿です。
-子どもがいくつになっても、子育ての悩みは尽きないもの。
未就学児だけでなく小学生以上の子育て家庭にも寄り添い、幅広く支援を行ういるかひろばは、きっと多くの人の心のより所となっていることでしょう。
利用者とともに歩みながら、時には方向性を示して優しく見守る。そんな温かさが、いるかひろばの活動全体に共通している部分だと感じました。
土居さん、大変学びの多いお話をありがとうございました。
記事執筆・写真:ことのは舎