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- 【取組紹介Vol.1】 利用者一人ひとりを見守り築く信頼の絆 「こうち絆ファーム TEAMあき」の取り組み<後編>
「高知型地域共生社会」では、介護や子育て・就労困難者のサポートなど、分野を超えた包括的な支援体制の整備を進めています。その実現に向けて取り組みを行う県内各地の実践事例をご紹介します。
今回は県東部の安芸市で生きづらさを抱える人たちの就労支援を行う「こうち絆ファーム TEAMあき」のインタビュー後編です。利用者への関わりで気をつけていることや地域との関わり、職員のやりがいについて、支援担当の岡村さんにお話を伺いました。
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こうち絆ファームとは
こうち絆ファームは、当事者の自立を目指すことを目標に活動する農業・福祉事業所(就労継続支援B型事業所)です。行政や関係団体と連携し、最低賃金で働けない方や生きづらさを感じる人たちに必要な支援を提供し、一般就労を目標としたサポートを行っています。
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前編はこちらからご覧いただけます。
「できること」に目を向ける。利用者の自信を育てる支援
利用者との関わり合い(写真:CRAFT5 Inc.)
-利用者への関わりで気をつけていることは何ですか。
ナスの最盛期には当事業所も非常に忙しくなりますが、頑張った分だけお給料(工賃)が上がるので、利用者はみんな一生懸命作業に励んでいます。中には月10万円以上を稼ぐ方もおり、「就労継続支援B型事業所でこれだけ稼げるところはなかなかない」と本当に嬉しそうです。
一方で、夢中になるあまり無理をしてしまい、メンタルや体に疲れが溜まっては意味がありません。朝から夕方まで袋詰めをしていると肩や腰が痛くなるので、翌日に響かないよう利用者の様子には細かく目を配り、「無理しないでね」という声かけを常に意識しています。
-声かけや関わり方で難しいと感じることはありますか。
いつも言葉には最大限の配慮をして伝えているのですが、精神疾患の方などはこちらの意図がうまく伝わらない場合もあり、難しいと感じます。声かけの際は「あなたのことが心配だから言っているよ」と伝わるように気をつけることと、できない部分を見るのではなくできている部分を見て声をかけ、自信をつけてもらうことを心がけています。
加えて、家庭環境を含めて今までに様々なつらい思いをして当事業所へ来た方が多いのですが、利用者に感情移入しすぎないことも意識しています。客観的に話を聞き、「今必要な支援は何か」を適切に判断して本人の成長につなげる重要性は常に実感するところです。継続して働いてもらうことが何より大切なので、そのための支援は職員一同で共通認識を持って取り組んでいます。
-こちらで支援を受けた利用者は、その後どのような道へと進んでいますか。
就労継続支援A型事業所や一般企業の就職へと進みます。卒業した利用者で安芸市役所に就職した方がいますが、先日顔を見せに来てくれて、とてもやりがいを持って働いている様子でした。
とはいえすぐに他の所で働けるケースは多くありません。安芸市役所に入った方も当事業所で何年か働いた後、パソコン教室で知識や技術を身につけるなど、たくさんの努力を重ねた結果として新しい仕事が決まりました。
令和4年には、生活保護を受けていた利用者の方が新規就農し独立したケースもあります。さらに令和7年に独立経営する方が出る予定です。
利用者自身のやりたいことや意欲にあわせて、進む道を一緒に考えアドバイスするようにしています。
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就労継続支援A型事業所とは
障害などの理由で現時点では企業への就職が難しいものの、適切な支援があれば雇用契約に基づいて働ける方を対象とした施設です。事業所では利用者が働く機会を提供しながら、一般企業などへ就職するために必要な知識・スキルを身につけるための訓練を行います。就労支援B型事業所と異なる点は、事業所と利用者が雇用契約を結ぶことです。利用者は様々なサポートを受けながら最低賃金が保障された給与を受け取ることができます。
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農業と福祉の連携、支え合いが生む地域の輪
ナスの収穫の様子(写真:こうち絆ファーム)
-地域の農家との関わりについて教えてください。
当事業所の取り組みに理解を示し、作業を委託してくださる農家さんの件数はどんどん増えています。袋詰め作業は良心的な価格で提供していますので、当事業所に委託することで農家さんの作業負担軽減などのメリットもあります。
ナスの収穫量が多い時期はその日のうちに袋詰めが完了しないこともありますが、利用者の体調への配慮や日によってペースが違うことも了承してくださる農家さんばかりで、大変ありがたいと思っています。
-地域に根ざした施設として、何かイベントなどを開催していますか。
当事業所の前で年1回「軽トラマルシェ」を開催しています。地域の農産物を販売したり、キッチンカーも何台か呼んでとてもにぎやかです。利用者の中でも人の多いところが苦手でない方は当日楽しんでもらい、近隣住民の方もたくさんいらっしゃるイベントです。また、絆ファームのハウスでは毎作の終わり(6月末頃)には、「ナス狩り」を開催しています。地域づくりの役割としてユニバーサル農園のイベントを実施し、子供から高齢者までナスの収穫体験を行うことが毎年の恒例行事となっています。今年は、2日で280人の方が参加されました。
小さな一歩がやがて大きな成長に!利用者と共に歩む喜び
仕事のやりがいを語る支援担当の岡村さん(写真:CRAFT5 Inc.)
-岡村さんの仕事のやりがいは何ですか。
最初はコミュニケーションが苦手だった方が色々な人と話せるようになったり、仕事の能力が上がってお給料が増えたりして、自信をつけていく様子を見るととても嬉しいです。作業内容や人との関わり方で利用者にアドバイスする場面では、繰り返し伝えることで少しずつ学んでいき、最初の頃に比べると見違えるほど変化する方もいます。
ステップアップしてA型事業所や一般企業の障害者雇用枠へ就職した方も、時々元気な姿を見せに来てくれます。今も頑張っていますと報告してくれる表情がとてもいきいきとしていて、自信にあふれた様子を見ると感激します。
精神疾患や障害にも色々なケースがあり、それぞれの人によっても程度が異なるため、職員は定期的に研修を受けて疾患への理解や対応方法を学んでいます。利用者と良い関係性を築けるよう、普段から表情や作業の様子を見て仕事量を調整したり、悩みや体調の相談に乗ることを心がけています。
-相談できる人がいる、気にかけて支えてくれる人の存在は、利用者にとって大きな心の拠り所になっているのですね。
相談することで元気を取り戻したり、気持ちを切り替えるきっかけになっていれば嬉しいです。当事業所の利用者の中には、褒められた経験が少なく自己肯定感が低い方もいます。「そんなに褒められたのは初めてだ」と嬉しそうに言う方も多いです。
褒めるとその人の能力はすごく伸びますし、作業のやりがいにもなります。前の職場でいじめに遭ってしまった方や、どの仕事も続けられなかった方が今ではいきいきとして「ここだから毎日楽しく働ける」と話す様子を見るのは、この仕事の何よりの喜びです。
-「こうち絆ファーム TEAMあき」の今後の展望についてお聞かせください。
県内に生きづらさを抱える人はたくさんいますし、障害のある人や生きづらさを抱える人の就労支援が十分でない地域も多くあり、「B型事業所を作ってほしい」という声が寄せられています。県中央部のいの町にもこうち絆ファームの事業所がありますが、そちらも利用者がどんどん増えている状況です。それだけ困っている人が多いのではないかと思います。
最初は働くことや人間関係に不安を抱える利用者も、通ううちに少しずつ慣れていき、個人のペースでより良い形へと成長を遂げています。これからも利用者一人ひとりに丁寧に寄り添い、それぞれが目指す道を実現するための支援を続けていきたいと思います。
-利用者が前向きに人生を歩むためのサポートを実践している「こうち絆ファーム TEAMあき」。その温かい支援は、今後も多くの方にとって自立への支えとなることでしょう。岡村さん、今回は貴重なお話をありがとうございました。
記事執筆:ことのは舎
編集:CRAFT5 Inc.