【取組紹介Vol.1】 農業と福祉の連携で社会参画を後押し! 「こうち絆ファーム TEAMあき」の取り組み<前編>

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掲載日 : 2024/08/30

「高知型地域共生社会」では、介護や子育て・就労困難者のサポートなど、分野を超えた包括的な支援体制の整備を進めています。その実現に向けて取り組みを行う県内各地の実践事例をご紹介します。
今回は県東部の安芸市で生きづらさを抱える人たちの就労支援を行う「こうち絆ファーム TEAMあき」にインタビューを行いました。具体的な支援内容や、就労経験が利用者にもたらした変化について、支援担当の岡村さんにお話を伺いました。


こうち絆ファームが実践する支援の形

参考:こうち絆ファームWebサイト(https://kochi-kizuna-farm.com/about/)

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こうち絆ファームとは
こうち絆ファームは、当事者の自立を目指すことを目標に活動する農業・福祉事業所(就労継続支援B型事業所)です。行政や関係団体と連携し、働きたくても働く場所がない方や最低賃金で働けない方、生きづらさを感じる人たちに必要な「生き方支援」を行っています。そして、生きる力をつける為に、生き方を伝えながら一般就労を目標としたサポートを行っています。
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就労継続支援B型事業所とは
現時点で一般企業などでの就労が困難な方を対象に、作業訓練などを通じて生産活動を行ってもらう施設です。作業が完了した成果に対して賃金が支払われる仕組みで、訓練を積んだ後は就労継続支援A型事業所への移行や、一般企業の一般就労もしくは障害者雇用枠での就労を目指します。
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社会につながる一歩をサポートする「こうち絆ファーム TEAMあき」の活動とは


岡村さんインタビュー

こうち絆ファームTEAMあきの支援内容について語る支援担当の岡村さん(写真:CRAFT5 Inc.)

 

-はじめに、「こうち絆ファーム TEAMあき」の概要について教えてください。

当事業所では、精神疾患や障害などによって社会で生きづらさを感じている方や、働きたくても働く場所がない方への支援を行っています。行政機関や生きづらさを感じる人たちの相談窓口・サポート団体などの関係機関と連携して、それぞれの人がいきいきと働ける環境を提供します。
農林水産省が推奨する「農福連携」の取り組みに則って、障害を持つ方などが人手不足の進む農業分野で活躍することを通じて、自信や生きがいを持って社会参画を実現する道のりを支援しています。現在はナス農家を中心に、25の農家と当事業所が共に農福連携事業に取り組んでいます。

 

-利用者がこちらに通うまでの流れはどういったものですか。

福祉保健所からの紹介を受けたり、家族が相談先を探して来られたり、行政などの関係機関からの連絡でつながるケースもあります。まずは見学や体験を通して作業ができそうかどうか考えてもらい、ご本人が「やってみたい」となれば働きに来ていただく流れです。

 

-ここではどういった方々が働いていますか。

生活困窮者や精神疾患を持つ方、軽度の知的障害がある方、触法者(法律に触れる行為をした人)などが働いています。ひきこもりの経験を持つ方や、障害・疾患が原因で過去の職場になじめなかった方もいます。
年齢層は20代から60代、50人ほどが事業所に登録しており、毎日20人前後が作業をしています。利用者は自分で運転したり送迎車を使ったりして通っており、西は高知市から東は室戸市まで、利用者の住む地域が幅広いのも特徴です。

 

生きづらさを感じる人たちに安心して働ける場を提供したい


絆ファーム作業1

こうち絆ファームTEAMあき事業所(写真:CRAFT5 Inc.)

 

-利用者がこちらに通う背景やきっかけについて教えてください。

障害による特性で周りの人となじめずに過去の仕事が長続きしなかったり、中には職場でいじめに遭った方もいます。また、様々な要因でひきこもりになって数十年間を家の中で過ごしてきたものの、親や兄弟が高齢化して援助が続けられなくなり、自立を目指して相談にいらっしゃる方も多いです。そういった生きづらさを抱えた方の受け皿や居場所として、当事業所では継続的な支援をしています。

 

-初めての利用者へ接する際に気をつけていることはありますか。

体験で初めて来た方は緊張している場合が多いので、気軽なコミュニケーションで心を開いてもらえるように気を配っています。「ここは安全な職場だよ、働きやすいよ」とアピールして、不安を感じさせない配慮をすることが大事です。

 

-普段、利用者はどのような作業に従事しているのでしょうか。


袋詰め作業

ナス箱入り

ナスの袋詰め作業(写真:こうち絆ファーム)

 

主にナスの袋詰め作業と、へぐり作業(楮(こうぞ)の表皮をナイフで削る作業)があります。また、事業所が運営するハウスでもナスを栽培しており、そちらの収穫作業も利用者と職員で協力してやっています。
ナスの最盛期である3月から5月はとても忙しく、多いときで1日に600箱近く作業することもあります。地元農家からたくさんのナスが運び込まれるため、通路までナスの箱を山積みにしながら利用者と一緒に職員も手を動かします。それ以外の時期は日によって作業内容を調整しながら行っています。


絆ファーム作業2

こうぞアップ

左:へぐり作業、右:へぐった楮(写真:こうち絆ファーム)

利用者の心に寄り添い、働く喜びを感じてもらうための細やかな支援


絆ファーム作業3

利用者の作業の様子(写真:こうち絆ファーム)

 

-「こうち絆ファーム TEAMあき」ならではの利用者支援の工夫についてお聞かせください。

一つのテーブルに職員1名から2名がついて、個別にサポートしながら作業にあたっています。精神疾患を持つ方は日によって体調に波がある場合も多く、様子を見ながら無理のない範囲で作業を進められるように配慮します。当事業所では各自のペースで作業ができるように時間の制限を設けていません。作業ノルマもなく、その日の状態に合わせて進める部分がとてもやりやすいと言う利用者も多いです。
さらに席の配置にもこだわっていて、対面で作業するのが苦手な方は壁際の席に座ってもらいます。慣れてくると対面の作業場に移動することもあります。音が苦手な方はイヤホンをつけるなどの対策も行い、本人に確認しながら負担のない形で働ける工夫を重ねています。
作業の成果は職員が確認し、時にはチェックしてやり直す場合もありますが、皆さん納得して丁寧に進めてくれます。「ここを気をつけてください」と言った部分を意識して作業ができるようになるとやりがいにつながりますし、他の職場では働けなかった方も「ここなら自分のペースでやれる」という声をいただいています。

 

-ここでの就労経験を通して、利用者に変化が表れた事例があれば教えてください。

人に対して恐怖心があったり、人との関わりに苦手意識が強かった方が、継続して通所することでだんだん慣れてきて、少しずつ心を開いてくれます。最初はあまり話をしなかった方も、怖くないとわかってくると別人のように話ができるようになっていきます。
また、周囲が気になるので周りから見えないように壁際で作業していた方も、徐々に他の方と一緒に作業ができるようになり、みんなと和気あいあいと働いている姿を見ると嬉しい気持ちになります。利用者の中には自己肯定感がとても低い方もいますが、仕事に慣れてきてスピードが上がると収入も増えるため、自信につながっているようです。

 

-少しずつできることが増えると、表情や日常生活にも良い影響がありそうですね。

ナスの袋詰めは30袋で1箱が完成しますが、1箱を10分や15分で仕上げて、1時間で5箱ほど作業ができるようになった方もいます。能力が上がると表情や顔つきが変わっていくのが目に見え、本人も成長が実感できて嬉しそうな様子が伝わってきます。
また精神疾患で薬を飲んでいる方もおり、こちらに通い始めた当初は日中の眠気があって仕事が進まない場合も多いです。でも少しずつ通ううちに朝から作業する生活リズムが整い、薬がだんだん減ってきて体調も良くなっていきます。眠気もなく作業への集中度もアップすると、ますますいきいきとした姿になっています。

 

前編では、「こうち絆ファーム TEAMあき」の活動内容や利用者が抱える背景、作業を通して芽生えた変化などについてお話を伺いました。後編では、岡村さんに利用者への関わりで気をつけていることや地域との関わり、職員のやりがいなどについて引き続き詳しくお伺いします。

記事執筆:ことのは舎
編集:CRAFT5 Inc.



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