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- 【取組紹介Vol.10】畑仕事でつなぐ、子どもと地域の絆。「日高わのわ会」の取り組み
今回は高知家地域共生社会推進宣言団体である「NPO法人 日高わのわ会」にインタビューを行いました。日高村立日下(くさか)小学校の3年生とともに行う「はたけクラブ」の取り組み内容や、今後の活動の展望について理事長の安岡さんにお話を伺いました。
地域の方々との交流後に撮影した集合写真
(写真:ことのは舎)
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NPO法人 日高わのわ会
「できる人が、できる時間に、できることを。」を理念に、高知県高岡郡日高村で活動する日高わのわ会。「地域の困りごとを解決したい」という想いを持つ地元のお母さんたちが集まるボランティアグループとしてスタートしました。2005(平成17)年にNPO法人となり、誰もが活躍できる社会の実現を目指した幅広い活動内容が注目され、全国からのべ2000件以上の視察を受けています。
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「高知型地域共生社会」では、介護や子育て・就労困難者のサポートなど、分野を超えた包括的な支援体制の整備を進めています。その実現に向けて取り組みを行う県内各地の実践事例をご紹介します。
“できること”から始めよう──日高わのわ会が描く地域共生社会
子どもたちに野菜の苗の植え方を教える安岡理事長
(写真:ことのは舎)
-「日高わのわ会」の成り立ちについて教えてください。
日高わのわ会は、もともと「住民活動グループわのわ」という地元のお母さんが集まるボランティアグループとして発足しました。最初は村が建てたふれあいセンターで活動しており、その中に喫茶スペースがあったことから「喫茶と配食をやってほしい」というニーズに応えたサービスを始めました。
その後、子育て中のメンバーの子どもを預かるチャイルドルームを併設したり、1998(平成10)年にはNPOとして全国で初めて短期入所サービスを開始するなど、みんなが活躍できる場所を増やしながら新しい事業やサービスを生みだしてきました。
-主な事業内容や理念についてお聞かせください。
「できる人が、できる時間に、できることを。」を理念として、一人ひとりのできることから地域の困りごとを解決に導く活動をしています。日高わのわ会のメンバーには、地元に住む子育て中のお母さんを中心に、高齢者・障害がある人もいます。
子育て中で働ける時間が限られる、年齢を重ねて若い人と同じようには働けない、障害の影響で活動が制限される…というように、みんなそれぞれに悩みや事情を抱えています。それを「できないから仕方ない」ではなく「みんなでやれば解決できる」という考えのもと、支え合いの仕組みを整えてきました。
私たちが目指すのは、「誰もが自分らしく働き暮らすことができる日高村」です。まずは日高わのわ会からそういった場所づくりを進め、今後も行政・自治体・大学などとの連携を深めながら地域全体の経済発展に貢献したいと考えています。
学校×子ども×福祉の協力のもとで活動するはたけクラブ
地域の農家さんのあたたかい協力のもと、はたけクラブは20年以上も活動を続けている
(写真:ことのは舎)
-はたけクラブはいつ頃から始まった取り組みですか。
NPO法人になる以前のボランティアグループとして活動していた頃から、地域の高齢者と子どもたちが交流する場を設けていました。当初は日下小学校の5年生・6年生を対象としていたものが、2010(平成22)年頃からは3年生の総合学習の時間に畑作業をする内容に変化して「はたけクラブ」になっていきました。地域の農家さんのご厚意で畑をお借りして、毎年様々な作物を植えています。
-はたけクラブの具体的な活動内容について教えてください。
地元の農家さんの指導を受けながら、子どもたちと一緒に畑の草引きをして苗を植え、秋に収穫します。植えるものはその年によって違いますが、今年はサツマイモ・落花生・かぼちゃ・スイカ・八升豆を植えました。スイートポテトを作ってみんなで食べたり、焼き芋をしたり、地元のスーパーで販売会をしたこともあります。販売会で得たお金はお肉を買うために使い、みんなでカレーパーティーをしました。
-畑を通じて様々な学びが得られる活動ですね。15年以上も続いている「はたけクラブ」の取り組みですが、長続きの秘訣は何でしょうか。
その年の先生・子どもたちのペースや、やりたい内容に合わせた活動をすることを心がけています。学校の先生は年度ごとに変わりますし、それぞれの先生によってこだわりたいポイントや進め方が違うからです。
まずは先生にはたけクラブをどんな方向性で進めたいのかを確認してから、「こんなこともできますねー」と決めていきます。こうでないといけない、という方針や目標を決めず、自分たちにできることからやっていったからこそ長く続いているのだと思います。
-畑仕事を教えるメンバーはどういった方たちですか。
地元農家さんと、日高わのわ会が運営する就労継続支援B型事業所に通う利用者です。農業指導をしてくれる農家さんは、昔からの知り合いなど地域のつながりを活かして集めています。小学校との橋渡し役も務めてくださって、「そろそろ草引きをしないと」とか「このくらいの時期に収穫できそう」など色々と気にかけてくれるのでありがたいです。
施設の利用者は、普段から畑作業をしているメンバーを中心に手伝いにきてくれます。利用者と小学生との交流ははたけクラブ発足当初から続けている取り組みです。利用者が自分の知っていることを教える役割を得たことで自信がつき、「また次も頑張ろう」という良い刺激につながっていると思います。
「お互いさま」が息づく村で。はたけクラブが紡ぐ地域の絆と希望
日高わのわ会が運営する就労継続支援B型事業所の利用者と小学生が協力して作業を進めた
(写真:ことのは舎)
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就労継続支援B型事業所とは
現時点で一般企業などでの就労が困難な方を対象に、作業訓練などを通じて生産活動を行ってもらう施設です。作業が完了した成果に対して工賃が支払われる仕組みで、訓練を積んだ後は、希望に合わせて就労継続支援A型事業所への移行や、一般企業の一般就労もしくは障害者雇用枠での就労を目指します。
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-はたけクラブに対して、子どもたちや保護者からどういった声が寄せられますか。
はたけクラブは、日高わのわ会の職員の中で小学3年生の子を持つお母さんが実行担当に任命されます。学校で普段、我が子がどんな風に過ごしているのかを知る機会はそれほど多くありませんが、はたけクラブで友達と楽しそうにやっている姿を見た職員は「すごく良い機会だった」と話します。
子どもたちからは、1年間が終わったタイミングで毎年感想文が届きます。外遊びよりもゲームが楽しい今の子たちは土に触れる機会も減っていますが「畑作業は初めてだったけど楽しかった」という声を聞かせてくれます。
-小学生たちとの交流を通して、地域に良い変化が表れたエピソードがあれば教えてください。
はたけクラブは15年以上も続いている取り組みなので、最初の年に参加した子どもたちが今は結婚して子どもを持つ年齢になりました。中には小学校時代に障害のある人や高齢者と交流した経験がきっかけとなり、老人ホームで働いている子もいます。今ではその子の勤め先でも、小学生を招いて学習や交流をしているそうで、はたけクラブから次の世代の福祉を担う人たちが生まれていることをとても嬉しく思っています。
-はたけクラブの今後の展望についてお聞かせください。
日高村では、他の地域に比べると2世代・3世代で暮らしている家庭が多い印象ですが、核家族化や進学・就職を機に村の外に出て行く若者の増加とともに地域のつながりが少しずつ希薄になってきたと感じています。
ただ、日高わのわ会の理念である「できる人が、できる時間に、できることを。」はお互い様で助け合える関係性があるからこそ成り立っているものなので、地域ならではのコミュニティやつながりは今後も大切にしていきたい部分ですね。
はたけクラブとしては、今後は3年生以外の子どもたちと一緒に活動できればいいなと考えています。3年生で知り合った子が4年生・5年生・6年生になっても縁が続くようなつながりを持ちつつ、学習支援や子ども食堂といった、今必要とされている子どもの居場所づくりにも貢献したいと思います。
-土に触れて汗を流すことはもちろん、自分たちの手で育てた野菜を食べる喜びや、地域の大人とのふれあいは教科書に載っていない「生きる力」を育む場となっています。
はたけクラブでのひとときは、子どもたちにとってかけがえのない経験。ひと粒の種がやがて芽を出し、花を咲かせて実を結ぶように、はたけクラブを経験して育った子どもたちが地域の中で再び誰かの力になっている姿に、地域共生社会の希望が見えました。今後もこの温かなつながりが次世代へと受け継がれていくことを願っています。今回はお話をお聞かせいただきありがとうございました。
記事執筆・写真:ことのは舎