- HOME
- 【取組紹介Vol.5】目指すは「日本一おいしい避難所」地域の防災意識向上にも貢献 「高知機型工業株式会社」の取り組み <前編>
「高知型地域共生社会」では、介護や子育て・就労困難者のサポートなど、分野を超えた包括的な支援体制の整備を進めています。その実現に向けて取り組みを行う県内各地の実践事例をご紹介します。
今回は香南市に本社を設け、地域住民に向けた防災・炊き出し訓練を実施する、高知家地域共生社会推進宣言企業の「高知機型工業株式会社」にインタビューを行いました。取締役副社長の北さんに、防災訓練に取り組み始めた経緯や災害対策で大切にしていることについてお話を伺いました。
防災炊き出し訓練の取り組みについて語る高知機型工業株式会社 取締役副社長の北さん(写真:CRAFT5 Inc.)
===
高知機型工業株式会社
昭和40年3月、高知市東雲町にて創業し、木型部門・樹脂型部門の事業をスタートさせました。金型、機械木型、シェルモールド、発泡スチロール模型等の設計・製作のほか、3Dスキャナーでのリバースエンジニアリング活用により、図面やデータのない老朽化した現行型の更新製作も手がけます。平成29年12⽉には経済産業省「地域未来牽引企業」に選定されたほか、「健康経営優良法人」にも認定(令和2年~/経済産業省)されています。また、SDGsへの取り組みも積極的に行っています。
===
SDGsを軸に、地域に根ざした防災力向上の取り組みを開始
防災訓練チェックリスト(写真:CRAFT5 Inc.)
-御社が防災訓練に力を入れ始めたきっかけについて教えてください。
きっかけは、SDGs(持続可能な開発目標)の内容を知ったことです。当社では平成28年頃からSDGsに関する取り組みを開始しました。世の中ではまだそれほどSDGsが知られていなかった頃ですが、「この目標は今後、企業が必ず取り組まなければならないものだ」と考え、防災も含めた様々な取り組みを進めてきました。
その中の一つが太陽光発電設備を設置することです。令和元年から準備を始め、翌年に設置を完了しました。また雨の場合を想定して、普段の業務で使用しているガスから電気を作る発電機も準備しました。非常時の電源がそろったことを受け、災害時にも使える厨房を社内に作ったり、炊き出し用の大きなお鍋やガス窯などを徐々に準備して今に至っています。
-とても早くからSDGsに取り組み、防災設備も整えてきたのですね。その流れを受けて高知県地域共生社会推進宣言に登録をしたということでしょうか。
高知県から案内を受け取り、地域の支え合いや、つながりづくりを目指す取り組みだと聞いて「やってみよう」と思いました。宣言をする以前から自社で取り組んでいた防災・炊き出し訓練の他に、地元のお祭りへの協賛や地域貢献活動への寄付活動も実施しています。
地域を巻き込んだ炊き出し訓練で災害時に備える
起震車による防災訓練(写真:CRAFT5 Inc.)
-地域の方をまじえた防災・炊き出し訓練を始めた背景について教えてください。
当社は令和4年10月から毎年1回、地域の皆さんをお招きした防災・炊き出し訓練を行っています。それ以前から社内では毎年防災訓練をしており、最初に炊き出しをしていた頃は自社と関連企業を招くだけの小さな集まりでした。
その取り組みを何回か続け、当社のメンバーが炊き出しの運営に少しずつ慣れてきたため、今度は地域の皆さんを呼ぼうとチラシを配って集まっていただくことを始めました。主に会社周辺のみかん農家さんや、近くにお住まいの方へご案内しています。
-もともと社内でも定期的に炊き出しを実施していたのですね。
社長の趣味が料理ということもあり、社内ではイベントごとにカレーや豚汁などの料理を社員に振る舞う場面がありました。それを防災訓練にも応用して、少しずつ厨房や大きいお鍋を準備していき、お招きする方も増やしていったという流れです。
災害などの非常時においしくて温かいご飯が食べられることは、避難者の健康維持においてとても重要です。当社では「日本一おいしい避難所」を目指して、社内で少しずつ進めてきたことを地域の皆さんにも広げながら、防災意識を高める活動をしています。
-令和元年には、香南市と防災協定を結んだそうですね。
地震などの災害発生時に香南市から「避難者を受け入れてください」という要請が来る可能性もあるため、地域の方が避難してきた場合の受け入れ準備は普段から万全に行っています。地震が発生すると公民館などが避難所として開設されますが、スペースが限られているため全員が入れるとは限りません。
当社の敷地はある程度の広さがありますし、雨除けのテントや寒い季節に床に敷く毛布、そして避難者の皆さんに使っていただける毛布もあわせて数百枚用意しています。工場には非常時に使えるコンセントがあり、スマートフォンなどの充電ができます。
工場内は通路が広いので、スペースをあければ車で避難して来た方も受け入れられます。騒がしい環境が苦手な方や、小さなお子さん連れの方、ペットと一緒に避難してきた方など、適宜敷地内を区切って様々な方を受け入れるシミュレーションをしています。
防災訓練を通して芽生えた、地域との温かなつながり
炊き出しの様子(写真:CRAFT5 Inc.)
-今回の防災・炊き出し訓練には、何名ほどの参加者がいましたか。
令和4年に初めて開催した際は20名ほどの参加でしたが、昨年と今年は40名以上の方がお越しくださっています。参加者は主に、当社の近隣のみかん農家さんや付近にお住まいの方です。他には「どうやって地域の防災訓練をしているのか見せてほしい」と言ってきてくださる方もいます。
-参加者からはどのような声が聞かれますか。
「いざという時にこういう避難場所があるとありがたい」「もしもの場合も安心できる」という声をいただいています。また「炊き出しのカレーがおいしい」という感想もあり、非常に嬉しかったです。
いくら地域の防災に向けた準備をしていても、地元の皆さんに知っていただかなければ実際の災害時に役に立つことはできません。皆さんと顔を合わせて一緒に炊き出しを食べ、知り合いになったり当社のことを覚えてもらうのが大事だと思います。近くのみかん農家さんは収穫時期になるといつもおすそ分けをして下さいますが、地域向けの防災訓練を始めてからはそんな地元ならではの温かなコミュニケーションが徐々に増えていると感じます。
-防災・炊き出し訓練を社内だけでなく地域へ広げたあと、訓練のやり方や社内の準備などで変化した部分はありましたか。
炊き出しに関するノウハウを数字で記録するようになりました。例えば「100人分作る場合ならこれくらいの材料が必要だ」というように、次に炊き出しをする機会に向けて記録を取っています。これにより、災害時に避難してきた方の数にあわせて料理が作れるようになりますし、いざという場面で「どんなものがどれくらい必要か」が的確に判断できることにつながります。
これは社内や関係者のみで防災・炊き出し訓練をしていた頃にはなかった考え方で、地域の方を招いたからこそ気づけたことだと思っています。今回で3回目の取り組みですが、年々スムーズに運営できるようになっていますので、今後も毎年続けて災害時の備えを強化したいですね。
炊き出しの絶品カレー(写真:CRAFT5 Inc.)
前編では、高知機型工業が実際の災害時に役立つ備えをしていることや、地域向けの防災・炊き出し訓練にかける想いについて伺いました。今回の訓練で振る舞われたカレーと豚汁は、早朝から社長自らが仕込みを行ったそうです。どちらも非常においしく、参加者の皆さんが笑顔で味わう様子が印象的でした。後編では、同社が社員に対して行う防災意識を啓発する取り組みや、今後の防災活動における展望について詳しくお聞きします。
記事執筆:ことのは舎
編集:株式会社CRAFT5