【取組紹介Vol.4】 ひきこもり支援のカギは「安心できる居場所づくり」 「南国市あったかふれあいセンター」の取り組み<前編>

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掲載日 : 2024/10/29

「高知型地域共生社会」では、介護や子育て・就労困難者のサポートなど、分野を超えた包括的な支援体制の整備を進めています。その実現に向けて取り組みを行う県内各地の実践事例をご紹介します。
高知県では、ひきこもり状態にある人やそのご家族を「孤立させない」ことを目指し、様々な機関が連携してサポートにあたっています。
今回は県中部の高知市に隣接する南国市にある『んしん ながる えない たち』の実現に向け、地域の特性を活かし、小地域での「つながりづくり」をサポートする「南国市あったかふれあいセンター」を運営する南国市社会福祉協議会の丹生谷(にゅうのや)さん・北野さんに、ひきこもり支援のMORITO(モリト)の取り組みについてお話を伺いました。


南国市あったかふれあいセンターの支援の形

作成:ことのは舎

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あったかふれあいセンターとは
子どもから高齢者まで、年齢や障害の有無に関わらず、誰でも気軽に集い、必要なサービスを受けることができる「高知型地域共生社会」の拠点です。現在県内31市町村(全34市町村)55の拠点があり、地域のニーズや実情に応じた様々な取り組みを実施しています。
南国市あったかふれあいセンターは祝日等を除き開所しており、各曜日にプログラムを設け、「制度の狭間」にある方に必要なサービスを提供しています。
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ひきこもりに悩む人々が「MORITO」で踏み出す新しい一歩


南国市社会福祉協議会

ひきこもり支援「MORITO」について語る南国市社会福祉協議会の北野さん(左)・丹生谷さん(写真:CRAFT5 Inc.)

 

-南国市あったかふれあいセンターが行う、ひきこもり支援の概要について教えてください。

北野:南国市あったかふれあいセンターでは曜日ごとにプログラムを設けています。ひきこもり支援は毎週月曜日と木曜日で、MORITO(モリト)という名称でひきこもり状態にある方の居場所づくりをしています。
MORITOは職員が創った造語で、漢字で表現すると「森人(もりと)」です。「森」は多種多様な木が集まって互いに支え合いながら一つの生態系を形成していますが、ひきこもり支援においても、参加者一人ひとりの課題が様々ある中で、南国市あったかふれあいセンターに「人」が集まり支え合うことで、つながりや支援の輪が広がってほしいという想いを込めて命名しました。
対象者は様々な理由でひきこもり状態にある方や、長期離職中の方、またその経験者です。ひきこもり状態から卒業して、今はアルバイトなど就労をしているものの、コミュニケーションに不安がある方も対象者としています。
また、ひきこもりに関連する悩みを持ったご家族の相談もお受けしています。現在は10代から30代なかばまでの利用者が通っています。

 

-利用者はどのようにしてこの施設とつながるのですか。

丹生谷:関係機関からつながってくるケースが多いです。ひきこもり地域支援センター(https://www.pref.kochi.lg.jp/doc/hikikomori/)からお話があったり、若者サポートステーション(https://www.pref.kochi.lg.jp/doc/kochisaposute/)を経由してつながったりします。他にはご家族が当法人のWEBサイトを見て、ひきこもりの相談がしたいと連絡を下さる場合もあります。

北野:MORITOに来ている利用者は、「現状をどうにかして変えたいけど、何をすればいいのかわからない」という方が多い印象です。どう頑張ればいいか迷っている利用者に対して、私たちができることから支援を行っています。

 

-具体的な活動内容はどのようなものですか。

北野:月曜日と木曜日の10時から16時で活動しており、参加する時間は利用者の自由です。1日フルで来ても構いませんし、午前中や午後のみ、またはアルバイトが終わってから1時間だけ寄る方もいます。
午前中は昼食作りをしており、みんなでメニューを決めて食材を買いに行き、実際の調理まで協力して行います。午後からは特にプログラムを用意しているわけではありませんが、テレビゲームをしながらコミュニケーションをとったり、軽く体を動かしたり、社会に出るために必要な知識が得られる勉強会なども実施しています。

 

「制度の狭間」へ手を差し伸べる。南国市あったかふれあいセンターが目指す支援の形


MORITOの様子1

カードゲームを通しコミュニケーションをとる利用者(写真:CRAFT5 Inc.)

 

-現在のひきこもり支援体制はいつから始まったのですか。

丹生谷:平成30年にスタートしました。平成29年度までは、他の市町村のあったかふれあいセンターと同じく、誰でも来ていい形式をとっていました。しかし、実際に利用する住民は数人で、メンバーが固定してしまっていたのです。
もちろんそれでも一定の効果はあったと思いますが、あったかふれあいセンターとして地域課題を解決するためには、どのような運営方法がベストなのか色々と模索していました。その中で、「制度の狭間にある人たちを救う、支援する」ことが南国市のやり方なのではないかという議論が進みました。

 

-地域課題の一つである、ひきこもり状態にある人の支援が何かできないかと考えたのですね。「MORITO」を作ろうと思ったきっかけはどのようなものでしたか。

北野:ひきこもりはかねてから地域の課題となっていましたが、具体的にどの施設が支えるのか定まっておらず、「相談はできるものの居場所がない」という問題点が見えてきました。そこで、ひきこもり状態にある方に自宅以外の居場所を作ることが大事だという考えから、MORITOのスタートに至りました。

丹生谷:最初は月曜日のみ活動していたMORITOですが、ひきこもり支援としては週1回では少ないということで、週2回に増やしました。制度の狭間にある人たちに手を差し伸べることが私たちの使命ですので、そこに向けた様々なプログラムを考え、年度や地域の課題に合わせて需要が高いものへと変化させる形で、今の支援体制が構築されています。

 

利用者を温かく見守り、個人のペースで自立を目指せる場所


MORITOの様子2

スポーツ等の様々なプログラムを楽しむ利用者(写真:CRAFT5 Inc.)

 

-「MORITO」に通う利用者が変化していった事例があればお聞かせください。

北野:皆さんそれぞれのペースで、少しずつ人とコミュニケーションがとれるようになっています。時間がかかる場合もありますが、MORITOに通うことで職員と話せるようになり、利用者同士も仲良くなっていくことが多いです。

 

-「MORITO」を卒業した方は、就労するケースが多いのでしょうか。

丹生谷:MORITOに来ている利用者はほぼ就労につながっています。もちろん当センターだけでなく、就労は若者サポートステーションに支援をお願いする場合もありますが、フルタイムの正社員やアルバイトも含めるとほぼ就労がきっかけで卒業していきます。

北野:若者サポートステーションは、農家などお試しで就労体験ができる場所につなげてくれます。また、当センターの関係機関へ就労体験に行かせてもらい、企業へ就職した方もいました。就労体験としては当センターの館内清掃をしてもらったり、期間限定でカフェの就労体験を紹介した事例もありました。

 

-ひきこもりの方のご家族からはどういった声が聞かれますか。

丹生谷:感謝の言葉をかけてくださるご家族がとても多いです。MORITOへ通い始めたことがきっかけで就職が決まった利用者は、家庭でも家事の手伝いなどを積極的にやるようになったそうです。
ひきこもり状態から良い方向へ変化すると、家庭での振る舞いも前向きになるケースはよくあります。それによって家族の関係性が良くなる場合も多く、MORITOに来て変わった姿を見て「本当にありがたい」という気持ちを聞かせてくださいます。

 

-南国市あったかふれあいセンターが考える、ひきこもり支援におけるゴールとはどのようなものですか。

丹生谷:特に明確なゴールは設定していませんが、利用者自身が自立したら自然とMORITOに来なくなります。ですので、自らの力でうまく歩み始めた方にとって、施設が必要でなくなったときがゴールなのではないかと思います。
もちろん、来なくなった方には職員が連絡をとって「最近どう?」と近況を尋ねます。もし自立の過程でつまずいてしまった場合は、またおいでと話をします。全員がスムーズに自立できるわけではないので、一旦卒業してもまた戻ってこられる体制を整えています。

北野:卒業してまた戻ってくるのも、当センターとしてはウェルカムです。過去には3回ほど戻ってきた人もいましたが、「おかえり」と温かく迎えました。社会に出た後も顔を出してくれる利用者もいて、県外で働く卒業生が高知に帰省したときに元気な姿を見せてくれたのはとても嬉しかったですね。


前編では南国市あったかふれあいセンターがひきこもり支援に踏み出した背景や、具体的な支援の内容について伺いました。後編では、同センターが行う高齢者支援の取り組みについて詳しくご紹介します。

 

記事執筆:ことのは舎
編集:株式会社CRAFT5



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